指定鳥獣にクマ/生息状況の実態把握を急げ(2024年2月28日『福島民友新聞』-「社説」)


 クマとの共生に向け、保護と管理のバランスを的確に保っていくことが大切だ。

 クマによる被害が多発していることを受け、政府は4月にも本州のツキノワグマと北海道のヒグマを鳥獣保護法に基づく「指定管理鳥獣」に追加する方針を決めた。

 指定管理鳥獣は、深刻な被害を及ぼす鳥獣を集中的、広域的に管理するため、国が定める。現在はニホンジカとイノシシが対象になっており、都道府県などによる捕獲や生息状況調査などの事業に国から交付金が出ている。

 クマは国内の陸上野生動物で最も大きく、森林生態系の頂点に位置付けられているが、個体数は少なく、繁殖力も低い。今回の指定に伴い、捕獲が活発になる可能性は高く、環境省の専門家検討会の委員からは「個体群の保全に配慮しつつ、被害の軽減につなげる捕獲が実施されることが必要だ」などの意見が出されている。

 県内では本年度、目撃件数や人的被害が急増したことで、昨年の倍以上となる過去最多の886頭が捕獲されている。国、県などは生態系を保全する視点を重視し、捕獲に偏らない被害防止策を検討する必要がある。

 管理と保護の前提になるのは、生息状況の把握だ。県は会津中通りで自動撮影カメラなどで個体識別を行い、県内の生息数を推計している。最新の調査では4千~7千頭前後とみられる。

 クマは移動距離が長く、生息実態の把握が難しい。最近は行動圏が広がっているとみられ、県内でも、これまで生息圏でないとされてきた浜通りで目撃情報が寄せられるようになった。

 隣接県と連携し、広い範囲で調査することが不可欠だ。国が中心となり調査方法や範囲、時期などを統一し、より正確な生息数や実態の把握につなげる必要がある。

 クマの本来の生息域である奥山と、人の生活圏との区分けが曖昧になり、双方の距離が接近してきたことが人的被害などの増加の要因の一つだ。過疎や高齢化で里山や畑の管理が行き届かず、緩衝地帯として機能しなくなっていることが背景にある。

 人里に果樹や野菜などの餌があることを学んだクマは警戒心が薄れ、最近は市街地にも近づいている。出没が多発している地域を中心に緩衝地帯を設けたり、移動ルートを断ったりするなどの対策に集中的に取り組むことが重要だ。

 保護や管理に取り組む人材確保も急務だ。国などは生息調査や捕獲、緩衝地帯の整備などの担い手育成に力を入れてほしい。