借金財政を立て直すには、急速な少子高齢化という厳しい現実に向き合うことから始めなければならない。
内閣府が2060年度までの長期の財政試算を初めて公表した。従来は10年先しか示さず、社会保障費がピークを迎える40年代以降は明らかにしていなかった。
国と地方の債務残高は既に1200兆円超と、国内総生産(GDP)の2倍に上っている。今後も実質成長率が年0・2%にとどまれば、60年度には3倍に膨れ上がるとの見通しを示した。
財政の持続可能性が危ぶまれる事態になりかねない。国の信用が低下し、金利高騰や、円の急落による物価上昇を招く恐れがある。国民生活に大きな打撃を及ぼす。
しかし、政府の危機感は乏しい。
岸田文雄首相は「力強い経済を実現する」と高成長を目指す考えを表明している。根拠としたのは、もう一つの試算だ。
成長率を1%超に高めることに加え、デジタル技術による医療・介護の効率化などに努めれば、債務残高はGDPの1・6倍以内に収まるという。
あまりに楽観的なシナリオである。日本経済は急激な人口減少が響いて、40年代にはマイナス成長に陥るとの見方が多い。
出生率が現在の1・26から1・6以上に大幅に上昇すると見込んだことも疑問だ。1980年代以来、到達していない水準である。
政府は少子化対策を打ち出したが、出生数の減少に歯止めを掛けるのは困難との指摘が出ている。
現実離れした想定に固執し、歳出の抑制がおろそかになると、借金漬けが深刻化するだけだ。
首相は、ばらまきとしか思えない大型予算を編成してきた。放漫財政に終止符を打つべきだ。
超高齢社会を支える多額の財源を確保するには、消費税の増税を検討することも避けて通れない。
物価高が続く中、国民の理解を得るには丁寧な議論を積み重ねる必要がある。にもかかわらず首相は「10年程度は上げることは考えない」と負担増を封印している。
日銀のマイナス金利解除によって、国債の利払い費が増大する懸念も生じている。財政健全化に背を向けたままでは、将来世代へのツケが膨らむばかりである。