安倍派失脚でも1200兆円借金は減らない? 財政再建派のはずの岸田首相「今や安倍氏より財政拡張志向が強い」(2024年4月10日『東京新聞』)

 
 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件の一斉処分を受け、財政政策に変化の兆しが出ている。最大派閥の安倍派を中心とする積極財政派に勢いがあったが、派閥解散と幹部失脚で発言力が低下しているためだ。日銀の異次元金融緩和策の転換で「金利のある世界」が視野に入る中、防衛費や国債費が過去最大を更新して将来不安も指摘される財政運営は見直しに向かうのか。(近藤統義、市川千晴)
財政健全化推進本部の会合であいさつする本部長の古川禎久元法相(右から2人目)

財政健全化推進本部の会合であいさつする本部長の古川禎久元法相(右から2人目)

◆軍事費を減らそうとした高橋是清蔵相を題材に

 安倍派幹部ら39人への処分が下された4日。自民党本部では、党紀委員会と同時刻に「財政健全化推進本部」の会合が開かれ、財政規律を重んじる財政再建派が存在感を見せつけた。
 会合には約40人が出席し、軍事費を削減しようとして暗殺された高橋是清蔵相を題材に財政運営のあり方を協議。本部長の古川禎久元法相は会合後、記者団に「財政規律を守るにはどうしたらいいか議論を深めたい。日本の財政は世界断トツで悪い。財政リスクに政治が向き合う姿勢は極めて大事だ」と強調した。

◆「野放図で無責任はいけない」

 国と地方を合わせた債務残高は1200兆円超。今後予想される金利上昇で、借金である国債の利払い費が膨らめば、財政再建をどう進めるかが急務となる。古川氏は「財政は国の安全保障の根幹。野放図で無責任なことはいけない」と大型の財政出動が続く状況にくぎを刺す。
 健全化の指標には、国と地方の基礎的財政収支プライマリーバランス、PB)があり、かつては政府の経済財政運営の指針「骨太方針」に「2025年度のPB黒字化を目指す」と明記されていた。22年度からは安倍晋三元首相ら積極派の反発で目標年次を明示していない。6月にもまとめる今年の骨太で目標をどう設定するかが焦点だ。
安倍晋三元首相(左)と外相時代の岸田文雄首相=2014年

安倍晋三元首相(左)と外相時代の岸田文雄首相=2014年

◆マイナス金利解除では目立った批判なし

 処分前の3日には、党内の積極派が「財政政策検討本部」を開催。安倍派だった本部長の西田昌司参院議員は記者団に「PBを指標にするのは間違い」と指摘した上で「裏金議員の処分と関連づけて積極財政を否定するような話にしたらだめだ」と主張したが、安倍派の多くは裏金事件や処分で身動きが取りづらい。
 財政出動とともに「アベノミクス」の柱だった金融政策は3月、日銀がマイナス金利を解除するなど異次元緩和から脱却した。「終了すれば安倍派は黙っていない」(経済官庁幹部)とみられたが、実際には表立った批判はなかった。

◆防衛費膨張に拍車かけた岸田首相

 ただ、財政規律を重視するとみられていた岸田文雄首相は所得税減税に加え、防衛費の倍増や兵器ローンの恒久化で膨張傾向が続く。「今では安倍氏より財政拡張志向が強い」(政府関係者)と見る向きもある。
 野村総研木内登英氏は「防衛費増や少子化対策で歳出は増え、2025年度のPB黒字化は現実味が落ちている。達成時期を2030年度にするなど現実的な目標に修正すべきだ。岸田政権は裏金事件で逆風下にあり、財政再建に踏み出すのは簡単ではないだろう」と話す。

 基礎的財政収支 社会保障や公共事業、教育など、国債の利払い費を除いた政策的経費を新たな借金に頼らず税収などで賄えているかを示す指標。内閣府が年2回試算している。小泉政権の2002年に初めて黒字化目標を導入し、当初は2010年代初頭の達成を目指していたが、一度も実現しないまま目標年次の先送りが続いている。