一方、検察が「ない」と主張した証拠が後になって提出されるケースも相次いでいて、専門家は開示のルールづくりが必要だと指摘しています。
検察から開示された証拠がその後の審理に影響したか尋ねると、半数以上の8つの弁護団が「再審開始の決め手になるなど、重要な証拠になった」と回答しました。
このうち5つの弁護団は重要証拠について、検察が当初、「ない」と説明していたと回答しました。
裁判所が勧告するなどしてその後に開示され、検察からは「警察署に保管されていた」とか「調査不足だった」などと説明があったということです。
再審開始が決まったあと、弁護側に有利な証拠が検察から出されたという例もありました。
それ以外の証拠も含め、これまでの審理で検察から開示を拒否されたことがあるという弁護団は7割以上の10に上り、開示しない理由について「必要性がない」「開示する義務や法的根拠がない」などと説明されたとしています。
重要な証拠が開示されるまで2、30年かかったという回答もあり、審理の長期化につながっているという指摘も出ています。
大阪大学法科大学院の水谷規男教授は「再審開始を判断する手続きには証拠開示のルールがないため、『法的根拠がない』として証拠を出さない検察の態度が許されてしまっている。そして『ない』と言ったものが後から出ると、『隠していたのか』という声が上がり、検察の信頼にも関わる。この問題を放置すると、誤った判決が埋もれたまま救済されない事態が起きかねない。法改正について議論していく必要がある」と話しています。
証拠開示に対する裁判官の対応にも差
弁護団からは、証拠開示に対する裁判官の対応にも大きな差があるという意見もあり、専門家は法整備が必要だと指摘しています。
証拠開示を請求したときの裁判所の対応を複数回答で聞いたところ、▽職権に基づき開示の勧告を出したという回答が8件、▽口頭で開示を促したのが7件、▽特段の対応がなかったのが5件でした。
具体的には、「地裁では勧告などはなかったが、高裁では裁判官の強力な訴訟指揮で勧告が出され、証拠が提出された」とか、「1回目に再審を求めたときの裁判官は積極的だったが、2回目の裁判官はまったく関心を示さなかった」という回答がありました。
また、重要証拠が検察から開示されたという8つの弁護団は、いずれも裁判所からの「勧告」などがあったと回答していて、裁判所の働きかけが開示に影響したことがうかがえます。
大阪大学法科大学院の水谷規男教授は「事件によって対応に違いはある」とした上で「証拠開示をめぐって双方で意見が合わなくても、裁判官が何もしなかったケースもあると聞く。ルールがないために審理に積極的な裁判官は証拠開示を働きかける一方、そうでない裁判官は消極的になるのではないか。いわゆる『再審格差』が生まれてしまうので、法整備が必要だ」と話しています。
再審で証拠開示されたケースでは
ことし10月に無罪が確定した袴田巌さんの場合、再審開始や無罪につながる証拠となった「血痕の付いた5点の衣類」のカラー写真30枚は、最初に再審を求めてから開示までにおよそ30年かかりました。
検察は当初、「必要不可欠の重要写真が隠されている事実はない。検察官の手持ちについて、いわゆる証拠あさりをするものとしか考えられない」などと強く拒否していました。
また、検察が「存在しない」と言った写真のネガや取り調べの録音テープがその後、警察署から発見され提出されました。
その時、裁判官は「本来あってはならない事態であり遺憾である」と述べたということです。
地裁と高裁の決定の理由に挙げられた、遺体発見現場の実況見分を写した写真のネガは、最初の申し立てから開示されるまで10年以上かかったといいます。
滋賀県東近江市の病院で当時の看護助手が患者の人工呼吸器を外して殺害したとして服役し、その後再審で無罪が確定したケースでは、患者のたんが詰まって死亡した可能性を指摘した医師の所見など、本人に有利な証拠が再審開始が決まった後に検察から開示されました。
検察は当時、これまで警察から送られていなかったと説明していました。
弁護団によりますと、大津地方裁判所で行われた再審の判決で、裁判長は「15年の歳月を経て初めて開示された証拠が多数ある。1つでも適切に開示されていれば起訴されなかったかもしれない」と述べたということです。