保育士の配置基準 環境改善の道筋を明確に(2024年4月11日『毎日新聞』-「社説」)

保育現場の窮状などを語り、配置基準の見直しを訴える保育士ら=名古屋市中村区で2023年1月、加藤沙波撮影

保育現場の窮状などを語り、配置基準の見直しを訴える保育士ら=名古屋市中村区で2023年1月、加藤沙波撮影

 子どもにはきめ細かな目配りが必要だ。保育の「質」向上につながることを期待したい。

 保育士1人が担当する子どもの数を示す配置基準が今月、改定された。4、5歳児は30人から25人、3歳児は20人から15人へと手厚くなった。

 4、5歳児の見直しは1948年の制度発足以来、初めてだ。保育士の働き方に余裕ができれば、一人一人の子どもと向き合う時間が増える。

保育士の配置基準改善を求め、保育士や保護者が政府に陳情した=東京都千代田区の参院議員会館で2023年3月1日、小鍜冶孝志撮影
保育士の配置基準改善を求め、保育士や保護者が政府に陳情した=東京都千代田区参院議員会館で2023年3月1日、小鍜冶孝志撮影

 保育政策は、施設が預かる子どもの数を増やす「量」の拡大に力点が置かれてきた。その結果、2023年4月時点の待機児童は2680人で、ピークだった17年の10分の1に減っている。

 一方で、近年、送迎バスでの子どもの置き去りや、園児を怒鳴ったり、たたいたりするなどの不適切保育が相次いでいる。

 子育て世帯などの不安を踏まえ、政府は、子どもを安心して預けられる体制整備を急ぐ必要があると判断した。

 人件費は、配置基準に基づいて国が手当てする仕組みだ。新基準に合わせて増員した場合、国からの配分は増える。

 保育の質に光を当てたことは評価できるが、課題もある。

 慢性的に人手不足の状況だ。全ての施設がすぐに保育士を増やせるわけではない。早期に基準を満たせるように、他産業に比べ低い給与水準や厳しい職場環境の改善が求められる。

 国が配分する人件費を着実に引き上げることが欠かせない。保育士資格のある人の再就職支援などもさらに進めるべきだ。

 こども家庭庁は今後、保育士配置の現状を調べる方針だ。国は経過措置として旧基準での運営も認めているが、期限は示していない。こうした状態が続けば、基準改定の効果が薄れてしまう。

 保育の職場は常に緊張を強いられる。

 子どもは大人の思い通りには動いてくれない。ちょっとした気の緩みが事故につながりかねない。体調が悪くなった子どもがいればかかりきりになる。

 子どもの育ちを支えるために、保育士が働きやすい環境を整えなければならない。その道筋を示すのは政治の責任だ。