和歌山県の資産家・野崎幸助さんが覚せい剤中毒で死亡した「紀州ドン・ファン事件」。殺人などの罪に問われた28歳の元妻に無罪判決が言い渡された。
裁判では元妻が野崎さんに覚せい剤を摂取させて殺害したと認められるかどうかが争点だった。判決では「第三者による他殺の可能性や自殺の可能性はないと言えるが、被害者が覚せい剤を誤って過剰摂取した可能性がないとは言い切れず、被告が殺害したとするには合理的な疑いが残る」と判断。今回の判決に対して、SNSなどでは「納得いかない」といった声も多く見られた。
元裁判官で法政大学法科大学院の水野智幸教授は、判決に関して意見を求められると「しっかりとした説得的な判決」とコメント。現在ある証拠(状況証拠)については「疑わしいが、判決が言う通り決定的なものはない」と、有罪方向の証拠が弱いとして「それで足りないなら有罪にはできない」と語った。
「どうしても“冤罪(えんざい)”がある。後になって『あれは犯人ではなかった』ということが出てくる。もしかしたら真犯人を野放しにしている危険がある。ただ、犯人ではない人を処罰することに比べたらその方がまだ許せるのではないかという思想。我々は被害者になることは結構想像するが、自分が突然全く見に覚えのない犯人に仕立て上げられて、あれよあれよという間に有罪になってしまうことはすごく怖いことだ。そのため真相を突き止めたいというギリギリの判断だったのだろう」(水野氏)
弁護士の中川みち子氏も「有罪にするには証拠に基づいて『この人がやったことに間違いない』というところまで立証されないと有罪にできない」と指摘して「『疑わしきは被告人の利益に』ということで、疑わしいだけでは有罪にできないという刑事司法の原則を貫いたのだと思う」と分析した。
ABEMA的ニュースショーでは、袴田巌さんが強盗殺人罪などで死刑判決を受け、のちに再審で無罪となった冤罪事件、いわゆる「袴田事件」をたびたび取り上げてきた。MCの千原ジュニアは「袴田さんの事件がなかったら、みたいなことにもなりかねない。あれだけ騒いでいたロス疑惑(1980年代にロサンゼルスで起きた傷害・銃撃事件が保険金目的による犯行ではないかと疑惑をかけられた騒動)でも、最高裁で無罪だった」とコメント。
メディアの報道について、ジャーナリストの青山和弘氏は「それ(報道)に引っ張られる心理がどこまであるかだが、やっぱりそれはあってはいけない」と、法と証拠に基づき判決が下されるべきだと警鐘を鳴らした。
(『ABEMA的ニュースショー』より)