地方創生/課題を検証し分権進めよ (2024年4月7日『神戸新聞』-「社説」

 文化庁が東京・霞が関の本庁を京都に移転して1年が過ぎた。政府の「地方創生」政策の一環で、中央省庁が移転する初のケースとなった。文化財集積地ならではの発想に基づく政策立案が期待されているが、独自の発信は十分とは言えない。

 全9課のうち、京都には国宝・重要文化財を担当する部署など4課が移った。一方、移転対象となった宗務課は東京で業務を続ける。献金被害などを巡る世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の解散命令請求に対応するためだ。国会対応や著作権などの部署は今後も東京に残り、「2拠点」体制が続く。

 東京一極集中の是正と人口減少の克服を目指す「地方創生」は、安倍晋三政権時代の2014年から取り組んできたものの一向に進んでいない。柱の一つである中央省庁の移転は、兵庫県観光庁受け入れを表明するなど多くの自治体が誘致しようとしたが、省庁の抵抗などでほとんどが見送られた。


 文化庁以外では消費者庁総務省統計局が一部業務の拠点を徳島県和歌山県に移したぐらいだ。文化庁の移転に伴う課題を検証し、他省庁の移転を促す議論を進めてもらいたい。

 本社機能を東京から地方に移す企業への優遇税制も創設したが利用が進まず、期待した効果があったとは言い難い。

 東京圏は毎年10万人前後の転入超過が続く。新型コロナウイルスの感染拡大で都市の過密が問題になり、地方からの流入が減った時期もあるが、コロナ禍の収束で再び増加に転じた。国全体の人口減少、少子高齢化が深刻化する中、地方の衰退に歯止めをかけることは急務だ。

 岸田文雄政権は新たな地方創生の指針として「デジタル田園都市国家構想」を掲げ、デジタル技術を活用して都市と地方の差を埋めることに重点を置く。各省庁や国会もデジタル化を急ぎ、地方への政府機関移転を進める議論につなげたい。持続可能な地域社会を築くには地方分権を一層推進する必要がある。

 都市部に人口が集中すれば災害時のリスクは高まる。南海トラフ地震など防災上も政府機関の分散は不可欠だ。国の将来に関わる問題であり、政治が指導力を発揮しなければならない。