訪日客300万人を生かそう(2024年4月30日『日本経済新聞』-「社説」)

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3月の訪日客は単月で初めて300万人を突破した
 
 3月のインバウンド(訪日外国人)が単月で初めて300万人を超えた。1〜3月の訪日外国人の消費額も1兆7505億円と四半期では過去最高になった。観光の地域経済への波及効果は大きい。流れを確実なものにしたい。
 訪日旅行の好調には円安による費用の低下、米国などの好景気、海外客に強い外資系ホテルの増加といった背景がある。新型コロナ下にネットで日本アニメを見る人が増えた点も寄与した。国際演劇祭を通じ芸術と歴史の街として名を広めた兵 庫県豊岡市など、自治体や政府のPRも実を結んだ。
 観光客の増加は地域での消費や投資、雇用につながり人口減の影響を補う。食材の納入など1次産業にもビジネスの機会を生む。伝統文化の体験は日本ファンを増やし担い手の経済基盤を強化する。観光客の誘致や関連産業の育成に一層、力を入れたい。
 気になる点もある。今年1〜3月の1人当たり消費額は20万円強とコロナ前の19年の平均に比べ約3割増えた。大きな伸びではあるが、22年秋の個人旅行の再開後は横ばい傾向にある。直近の円安の加速を考えると、旅行者の消費を一段と伸ばす余地は大きいのではないか。訪日客は円安で高まった購買力を十分に支出に回していないともいえる。
 コロナ前に比べ目的地の集中が進んでいる点も気がかりだ。訪日旅行の宿泊の内訳をみると、三大都市圏の割合は19年の63%から23年には72%に増えた。残る地方部への宿泊数は37%から28%に減っている。観光による地方創生やオーバーツーリズム解消のため、地方への分散を進めたい。
 国立公園や文化財を活用し、地域の自然や伝統文化の魅力をうまく訴えることが大事になる。またマイカーの無い旅行者にとって公共交通機関の乏しい地域は訪問しづらい。諸外国と同じようなライドシェアのサービスがあれば、使い慣れた外国人旅行者には喜ばれるだろう。前例にとらわれず、できることはしていくべきだ。