Google処分が映すデジタル規制の課題(2024年4月30日『日本経済新聞』-「社説」)

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独占禁止法に基づく米グーグルの処分は初めてとなる
 インターネット広告市場の競争を妨げた疑いで、公正取引委員会が米グーグルに独占禁止法に基づく行政処分を科した。事業者が法令を守るのは当然とはいえ、市場の変化に規制が追いつかなかった面も否めない。競争当局はデジタル分野の変化に機動的に対応できる体制を整える必要がある。
 公取委が問題視したのはグーグルとLINEヤフーの関係だ。両社は国内のネット広告で競合関係にあるが、2010年にグーグルが当時のヤフーに検索などの基盤技術を供与する契約を結んだ。
 グーグルの市場支配力の増大が懸念されたが、両社は「サービスは個別に提供する」などと説明して公取委の理解を得た。だが契約を一部変更し、22年までの7年間、ヤフーが広告サービスの提供で制約を受ける状態が続いた。
 公取委は22年にグーグルに対する審査を始め、外部専門家による監査の受け入れなどを含む同社が提出した自主改善案を認定した。22日の記者会見で担当者は「迅速に処理できた」と説明した。
 ただ、市場の構図がいったん固まると、それを事後的に是正するのは至難の業だ。そこで当局は市場支配力が不当に行使され、競争がゆがめられようとしているタイミングで介入し、待ったをかけることが重要だ。その観点からすれば、制約が始まって既に7年たった時点での措置は、遅きに失したのではないか。
 当局の出遅れは日本だけの問題ではない。背景には巨大IT企業が法務や渉外などの部門を拡大する一方、各国の競争当局の体制が不十分という事情がある。中途採用などで技術やデジタル分野の競争に詳しい人材の拡充が急務だ。
海外では欧州がデジタル分野の規制で先行し、米国でも反トラスト法(独占禁止法)に基づく巨大IT企業の提訴が相次ぐ。 各地の競争当局が連携し、不足している知見を補い合うことも課題だ。
 デジタル分野の消費者向けのサービスは無料のことも多く、独占や寡占の悪影響が見えにくい。当局は競争促進策の効果を測定し、技術革新の加速や利便性の向上を確実にする必要がある。
 政府はスマホの基本ソフトなどで高いシェアを握る事業者を対象に、競争の制限を禁じる新法を今国会に提出して独禁法を補完する考えだ。寡占に流れがちなデジタル市場の競争を活性化する効果があるかどうか注目したい。