クマ捕獲交付金 殺処分減らす対応徹底を(2024年4月30日『産経新聞』-「主張」)

キャプチャ
秋田県鹿角市内に設置した自動撮影カメラに写ったクマ=昨年8月(秋田県自然保護課提供)
 
 北海道のヒグマと本州のツキノワグマが「指定管理鳥獣」に位置づけられた。
生息数や分布の拡大による各種の被害を防止するために集中的、広域的な管理が必要とされる野生生物が指定管理鳥獣だ。環境省が指定した。
 この措置で都道府県によるクマの捕獲などに国からの交付金が支給されるようになる。これまでの指定はイノシシとニホンジカのみだったので、野生動物行政での大きな変化である。適切な運用を期待したい。
 クマの指定は、近年の人身被害の多発や市街地への出現増加を踏まえての対応だ。とりわけ昨年度はクマに襲われる事故が多かった。北海道と本州で死者6人を含む219人が被害に遭っている。こうした事態を受け、昨年11月には北海道東北地方知事会からクマの指定管理鳥獣化を求める要望書が環境省に提出されていた。
 今回の指定に当たり、伊藤信太郎環境相からは、人の生活圏とクマの生息域を区分する「ゾーニング管理」や、県境などをまたいで移動するクマへの「広域的管理」などを柱に対応するとの説明があった。
 都道府県には、交付金をこうした措置への費用に充てることでクマと人間との軋轢(あつれき)を減らすよう努めてもらいたい。これを怠り、交付金の支途をクマの捕獲に傾斜させると許可捕獲頭数が増加し、ひいては捕殺(殺処分)頭数がさらに増す。
 ツキノワグマの場合は昨年度(2月末集計)、許可捕獲で捕まえられた7903頭中7723頭が捕殺されている。危険個体以外は人間の怖さを教えて奥山に返す「学習放獣」が理想なのだが、その実施は2%に過ぎないのだ。人手不足などが理由とされる。
 クマは地域個体群に分かれて生息している。各個体群の頭数の正確な把握が急務だ。これを曖昧にしたまま捕獲・捕殺に走れば絶滅を招く。九州ではそれが起きた。四国の個体群も既に危うい。クマの繁殖率はイノシシなどに比べて低いのだ。
人里での事故防止には、柿の実などの始末や茂り放題の荒れ地の整理が有効だ。ICT(情報通信技術)の活用もクマの出没察知に期待される。
 クマが冬眠から目覚める季節を迎えた。山菜採りなどには十分に気を付けてもらいたい。