地価上昇に関する社説・コラム(2024年3月27日)

東京都心では大規模開発によるオフィスの大量供給が続く
 
公示地価上昇 安定図る政策欠かせぬ(2024年3月27日『北海道新聞』-「社説」)

 道内の今年1月時点の公示地価は、全用途平均で前年比プラス4.6%と8年連続で上昇した。上昇率は昨年を下回ったが、全国平均の2.3%を超えている。
 全道の商業地の平均上昇率は昨年を上回った。再開発が続く札幌市中心部などに投資マネーが流入しているほか、訪日観光客の回復も追い風となっている。
 地価の上昇が地域の経済力や将来性の向上に基づいたものであるのなら歓迎できる。
 だが多くの道民の生活実感や中小企業の業績が、それに見合って改善しているとは言い難い。物価高が続く中、賃上げの動きもようやく広がりつつある段階だ。
 札幌市内ではマンション価格が高止まりし、一般的な勤労世帯は購入が難しくなっている。
 若い世代の住宅取得が困難になれば、結婚の減少などを通じて少子化がさらに加速しかねない。
 物価や賃金の上昇を極端に超える不動産価格の高騰は望ましくない。政府は詳細に分析し、行き過ぎた上昇への対応を含め、価格の安定に努めていく必要がある。
 住宅地の上昇率では富良野市北の峰町が全国1位となった。高騰したニセコ地域を避け、外国人投資家の引き合いが増えている。
 ラピダスの進出に伴って工事関係者向けの賃貸住宅需要などが旺盛な千歳市内など、全国上位10位に道内7地点が入った。
 台湾積体電路製造(TSMC)が進出する熊本県内では、家賃上昇や農地の売却が目立つ。
 道内でも人や資金の急激な流入で家賃や人件費、物価が上昇し、前から暮らす人たちにしわ寄せが及ぶことがないか注視すべきだ。
 道内64町の住宅地の平均も26年ぶりに上昇した。十勝管内幕別町芽室町など、帯広市に近く利便性の高い地点が大きく上がった。
 ただ旧産炭地をはじめ、人口減や高齢化が進む地方では下落傾向にある。地価の安さは移住者獲得には利点だが、下がる一方では地域の活力が衰えるばかりだ。
 暮らしやすいまちづくりが重要となる。高齢者の買い物や子育てのしやすさなど、地域の魅力を地道に高めていくことが肝要だ。
 郊外と中心部を結ぶバスの減便が相次ぐ都市にも当てはまるのではないか。政府は財政面を含めた支援を拡充してもらいたい。
 日銀がマイナス金利を解除し、今後は金利上昇も想定される。
 超低金利頼みではなく、経済の底上げで安定した土地需要を創出していくことが求められる。
 
広がる地価上昇の先行きを注視せよ(2024年3月27日『日本経済新聞』-「社説」)
 

 地価の上昇が全国的に広がっている。景気の緩やかな回復で三大都市圏は上昇率を高め、地方圏も県都を中心に回復基調を強めている。ただ今後は利上げや建設コスト高などの影響が考えられ、先行きを注視する必要がある。

 国土交通省がまとめた1月1日時点の公示地価は、全体の平均が3年連続で上昇した。上昇地点は全国の6割、三大都市圏は8割を超えた。都道府県単位でみると、前年は上昇と下落がほぼ拮抗していたが、下落の続く県は全体の3分の1ほどに減った。

 都市部では、商業地はインバウンド(訪日外国人)の回復やオフィス回帰の動きなどで、三大都市圏が5%、札幌や福岡など地方4都市は9%上昇した。海外マネーが再開発に流れ込む構図が続いているといえよう。住宅地は都心マンション価格の高止まりやテレワークの定着もあり、郊外に上昇地点が広がっている。

 地方圏では高齢層が車なしに暮らせる中心部のマンション需要が旺盛だ。県都で下落が続くのは住宅地が甲府など6市、商業地は鳥取など2市に減った。ただ地方圏全体では上昇地点は半数に満たず、回復局面に入って二極化がより鮮明になりつつある。

 上昇率が高いのはインバウンドや半導体工場などの需要が大きい北海道や九州に目立つ。住宅地のトップはリゾートの北海道富良野市、商業地は半導体工場に近い熊本県大津町でそれぞれ3割前後上昇した。土地の供給に制約がある地域も多く、中長期的な土地政策で自治体の手腕が問われる。

 今の地価はおおむね実需に基づいているとされるが、開発の続く東京都心では一部に割高な取引が出始めたという。地方では空き家が増えるなかで拡大してきた賃貸業向け融資の採算が悪化している。過熱感に注意が必要だ。

 東京の不動産市場は低金利や円安を背景に世界の主要都市に比べて有利だとして海外マネーを集めてきた。ただオフィスの大量供給が続くのに加え、マイナス金利解除で資金調達コストが上昇し、残業規制や資材高で建設コストも高まれば、うまみは減る。調整色が強まる海外市場の動向もあり、海外投資家の動きを注視したい。

 日経平均株価はバブル期の水準を超えたが、当時二千数百兆円に膨らんだ地価総額の戻りは半分ほどだ。人口減少の影響も大きく、今後の動向に目を凝らしたい。