◆七尾湾の特産トリガイ
七尾湾特産の天然トリガイは、つめ付きの桁で海底を起こしながら、網に引き入れて採る。近年は漁獲量低迷が続く一方、養殖の「能登とり貝」は出荷が好調。砂状の黒炭の中に稚貝を埋め、いかだなどでコンテナを海中につるし、約10カ月かけて育てる。
海底清掃で拾い上げたごみを前に、漁の再開を待ち望む漁師=石川県七尾市石崎町で
身が大きく肉厚、甘みが強く、天然、養殖ともに高品質。関東や関西など全国に出荷され、高級すし店などで使われる。昨年は能登とり貝に過去最高となる1個1万5000円の値が付き、地元漁師も「ダイヤモンド」に例えるほどだ。
今年の天然トリガイ漁解禁に向けては、地震で海底に沈んだ災害ごみやがれきを取り除く海底清掃の作業が終わらず、漁に出られない漁師が多数いる。石川県七尾市で漁の許可を受けていた県漁協七尾、ななか両支所の計12隻のうち、10日に開始するのはななか支所の2隻だけだ。
◆「まず海をきれいにしてから」
七尾支所では、全8隻の漁業者で足並みをそろえ、清掃のめどが立つまでは漁をしないことを決定。竹内大生(だいき)運営委員長(38)は「漁に出たいのはやまやまだが、まずは海をきれいにしてから。みんなで一つになって復興を目指す」と話した。
養殖分もいかだが津波で壊れたり、コンテナから砂状の黒炭が流出したりした。復旧するのにも道路状況が悪く、県外から黒炭を取り寄せるのに苦労した。ななか支所参事の藤田寿代さん(66)によると、昨夏の温暖化で数が減ったのに加え、地震の影響でさらに3割ほどが死んでしまい、例年の半数ほどしか残らない見通しだ。
七尾市石崎町でトリガイ漁をする土倉卓さん(57)は「海底に隆起やひび割れがあって、危険度が高い。いつもの航路でドーンと底に当たったり、流れたロープが絡み付いたりして船を出すのがこわい」と訴える。トリガイに加え、今が最盛期のサヨリも取りにいけない。
◆東京の料理店でも人気
能登とり貝を仕入れる東京・六本木の和食料理店「割烹(かっぽう) 一献」のオーナーシェフ鹿渡(しかわたり)省吾さん(53)は「厚みや歯応えがあり、東京の人にも人気。かなり残念だが、あれだけ大きなトリガイは他の物に代えられないので、復活を待つしかない」と話す。
約20年にわたり七尾湾の天然トリガイを使う石川県野々市市のすし店「すし処めくみ」の店主(52)も「春の目玉として認知度も高く、求めて来るお客さんも多い。漁ができるようになったら、できる範囲で買い支えていきたい」と再開を待ち望む。
【関連記事】能登半島地震の「復興」に気をもむ3.11の経験者たち 今だからこそ伝えたい苦い「教訓」とは
【関連記事】能登半島地震の衝撃に便乗するのでは…改憲、増税、原発再稼働 「ショック・ドクトリン」に要注意
【関連記事】能登半島地震の衝撃に便乗するのでは…改憲、増税、原発再稼働 「ショック・ドクトリン」に要注意