脱炭素「中国抜き」でやれるのか 太陽光パネルで欧州ジレンマ、産業界は悲鳴(2024年5月2日『産経新聞』)

フライブルクで、閉鎖が発表された太陽光パネル工場の製造ラインを管理する技術者(ロイター)
 

再生可能エネルギーの普及を目指す欧州連合(EU)が4月、中国製の太陽光パネル流入に対抗し、不正競争の疑いで調査に入った。EU域内の環境産業を守る狙いあるが、「太陽光発電の普及には安価な中国製は必要」の声も根強く、ジレンマに立たされている。

米国、インドの保護策でしわ寄せ?

調査はEU欧州委員会が4月3日に開始した。中国2社が国家補助金を受けてEU市場に参入し、競争をゆがめた疑いがあるとしている。

担当のブルトン欧州委員は「太陽光パネルはEUにとって戦略的な重要物資だ」と述べ、経済安全保障の重要性を強調した。EUは中国政策で「リスク軽減」を掲げ、供給網の依存脱却を目指している。

EUでは太陽光パネルや素材のうち、中国製のシェアが9割を占める。欧州の業界団体代表は2月、「政治が手を打たなければ、数カ月で大半の企業がつぶれる」と対応を求めていた。

「エコ先進地」として有名なドイツでは、太陽光発電大手マイヤー・ブルガーが工場閉鎖を表明した。500人の雇用喪失になる。同社は声明で、中国の過剰生産品が世界市場にあふれ、米国やインドが国内産業保護に動く中、欧州が受け皿にされていると警告した。

EUは温室効果ガス排出量を「実質ゼロ」にする環境技術で、2030年までに製造シェアを40%にする目標を掲げる。太陽光発電は、その柱のひとつ。フランスのルメール財務相は4月初め、国内のパネル大手に対する補助金支給を発表し、「国産推進に向けて汗をかく」と述べた。ドイツも新たな補助金を検討。国内産業の保護に動く。

ロシア産ガス高騰で、新設100万件

中国リスク」に警戒が高まる一方、安価な中国製のおかげで太陽光発電が飛躍的に普及したという現実もある。

EUでは22年、ロシアのウクライナ侵略で対露エネルギー禁輸を発動した結果、ガスと電気価格が急騰した。これが契機となって住宅のベランダや駐車場に太陽光パネル設置が進展。ドイツでは昨年、新規設置が22年比で倍増し、100万件に達した。中国製は独製より3割安いという。

欧州シンクタンクブリューゲル」のベン・マクウィリアム研究員は、太陽光パネルでは中国リスクは薄いと指摘する。

太陽光パネルは供給過剰で、EUには1年分以上の在庫がある」と述べ、中国が市場独占で価格操作したり、禁輸したりしても政治的圧力にはつながらないと分析する。補助金でEU企業を支えても競争力はつかず、脱炭素化を遅らせるだけだとして、「欧州は一定量の在庫を確保しながら、光吸収効率の向上など技術開発に重点を置くべき」と訴える。

太陽光パネルをめぐるEUと中国の貿易摩擦は2013年にも起きた。当時、EUは中国製パネルに47・7%の反ダンピング(不当廉売)課税をかけようとしたが、中国が報復を表明し、最低価格を設ける妥協策で決着した。(三井美奈)

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