「大黒柱になったし…」は危険なサイン 父親の1割に産後うつリスク(2024年4月6日『毎日新聞』)

母親だけでなく、父親にも「産後うつ」のリスクが指摘されている(写真はイメージ)=ゲッティ

 高齢で父親になる男性が増える中、懸念されるのが「産後うつ」の発症リスクだ。仕事と育児の両立に加え、親の介護を抱える場合もあり、心身への負担が増えるためだ。国の調査を専門家が分析した結果、父親の1割が精神的な不調を経験していた。父親支援に取り組む団体は「男らしさや父親らしさにとらわれないで」と呼びかけている。

 高齢で父親になる男性が増えています。不妊、介護、仕事……。「高齢パパ」をテーマに以下の記事をお届けします。感想や体験談を「つながる毎日新聞」までお寄せ下さい。
 ・死別、落選、不妊…それでも父になる
 ・40代以上の父、20年前の1.4倍
 ・5歳と9歳と認知症の父親と ダブルケアで学んだ「人生の意味」
 ・2度の流産乗り越え「白髪のパパ」に 元NHKアナの登坂淳一さん
 ・おじいちゃんに間違われた(7日午前7時公開予定)

突然涙が出てきた

 「仕事も家事も育児も、全てやろうとしすぎて『容量いっぱい』になってしまった」。4歳と2歳の子どもを育てる自営業の男性は、第2子が生まれた数カ月後、医師から「うつ状態」と診断された。

 産後うつは、子の誕生後に気分が沈み、不安や焦燥感が強まった状態のこと。男性は「自分が頑張らなきゃ」と気力をみなぎらせていたが、長女も次女も夜泣きがあり、睡眠は細切れになった。寝不足のまま仕事や子育てに追われる日々が続いた。

 ある日、会社での会議中に言葉が出てこなくなった。子どもと水族館で楽しい時間を過ごしていても、突然涙が出てきた。

 「感情のコントロールができなくなった自分」に危機感を覚え、カウンセリングを受けた結果、産後うつであることが分かった。

 2016年の国民生活基礎調査厚生労働省)のデータをもとに専門家が調べたところ、子の誕生後1年間で「精神的な不調のリスクがある」と判定された割合は母親が10・8%で、父親は11・0%だった。母親だけでなく、父親も産後うつのリスクを抱えていることを示すデータだ。父親の長時間労働や睡眠不足がリスク要因になっているという。

過度の責任感は有害

取材に応じる平野翔大さん=東京都内で2023年8月25日午後7時6分、坂根真理撮影拡大
取材に応じる平野翔大さん=東京都内で2023年8月25日午後7時6分、坂根真理撮影

 父親支援に取り組む一般社団法人「ダディーサポート協会」の代表理事産業医の平野翔大さんは、60人以上の父親のヒアリングをしてきた。

 平野さんによると、「父親は大黒柱であるべきだ」「失敗している姿を見せるのは恥だ」と思い込みがちな父親ほど、そうでない父親と比べてうつ状態に陥りやすいという。

 実際に平野さんが診察した男性では、過度の責任感で家を買ったり、転職したりして経済的・精神的な負荷が増えた▽育児休暇を取得したことでキャリアへの不安が高まった▽思い通りにならない育児で自信を喪失した――などのケースがあった。

 50歳以上になってから子どもが生まれ、育児と親の介護の「ダブルケア」に追い詰められて抑うつ気味になった父親もいたという。

 平野さんは「仕事も育児もちゃんとやらないといけない」などと義務感を抱え込むことを「有害な男らしさ」と呼び、適切な支援や医療につながっていないケースが数多くあると指摘する。

 国は2022年10月から「産後パパ育休」制度を始めるなど、男性の育休取得を促す一方、父親の相談支援や交流会の実施などを始めた自治体に補助金を出している。

 こども家庭庁の担当者は「父親の育休取得が浸透し、夫婦で育児をしているからこそ、産後は母親だけでなく父親もセットで支援していくことが求められている」と話す。【坂根真理】