日本維新の会が難局に直面している。4月28日投開票の衆院補欠選挙では候補を擁立した2選挙区で敗退し、本拠地・大阪以外の首長選でも黒星を重ねる。
昨春の奈良県知事選で公認候補として初当選し、今月3日に就任1年を迎える山下真知事は維新ならではのスピード感で前知事時代の事業を見直す一方、大規模太陽光発電施設(メガソーラー)整備への方針転換が「唐突だ」として反発を招き、波乱の県政運営が続いている。
■前知事路線を即「否定」
「公約の7割程度は達成できた。前知事時代のハード事業の見直しや、ソフト施策もかなりできた」。山下氏は4月24日の記者会見で、就任1年を前に自身の県政運営をこう振り返った。
保守分裂となった昨年4月の知事選で前知事の荒井正吾氏らを破り、4期16年続いた荒井県政に終止符を打った。
同5月8日に初登庁するやいなや、荒井氏が編成した令和5年度予算のうち、21事業約80億円の執行停止を指示し、翌月にはこのうち15事業の中止を決定した。
浮いた事業費は、維新が重視する子育て・教育支援に投資。私立高校に通う子供を育てる年収910万円未満の世帯を対象に、生徒1人当たり63万円を上限に授業料を公費負担する制度を6年度から始める方針を決め、高校授業料の完全無償化実現に一歩近づけた。
「目に見えて県政が変わってきている」。
維新県議はこの1年を振り返り、手応えを感じている。
山下氏の真骨頂は、決断の速さにあるという。知事就任後初の県議会で、この県議が「道路の維持管理が悪い」と指摘すると、山下氏は「同様の認識だ」と応じ、すぐに修繕計画の検討を始めた。維新県議は「このスピード感は前の知事にはなかった」と話す。
■「背信」との批判も だが、それはもろ刃の剣ともいえる。
山下氏は6年度予算案の編成にあたり、前知事が計画していた県南部での広域防災拠点機能を大幅に縮小し、メガソーラーを備えた施設を整備する案を打ち出した。県議や地元住民らに説明会などの根回しはなかったといい、「唐突すぎる」と異論が噴出。県議会予算特別委員会では自民系会派などの反対で予算案は否決された。
地元自治会の役員だった男性は「前知事のときは(政策決定前の)説明会や協議が丁寧にあった」と苦言を呈し、自民県議は「最重要の防災対策を突然変更するのは、県民への背信行為だ」と批判する。
山下氏はメガソーラー整備案を維持しつつ、外部有識者らの意見も幅広く聴きながら、防災体制のあり方を検討する考えだ。
ほかにも老朽化した県施設の移転整備など課題は多い。山下氏は「今のやり方が全て正しいというつもりはない」としながら、「政治的に信頼関係のないところからスタートしている。水面下での交渉が常にうまくいく保証はない」と苦悩をにじませる。
維新の吉村洋文共同代表(大阪府知事)は山下氏の手腕を「これまでと違う財政改革を行い、次世代に投資している」と評価する。ただ維新が過半数の議席を確保する府議会(定数79)と異なり、県議会(定数43)では自民系会派(22議席)に過半数を握られ、維新は第2会派の14議席。山下氏は今後、非維新会派とどう向き合うかが問われそうだ。
■「改革ビジョン示せ」
先の衆院3補選は、候補を立てた東京15区と長崎3区でいずれも立民に及ばなかった。維新の藤田文武幹事長は「大阪以外は議員も候補者の活動量も足りていない。地道にやっていくしかない」と述べた。