◆志賀原発から8キロ、使えなくなった港
水の澄んだ船着き場をのぞき込むと、海の底一面に黄土色の砂がたまっていた。水深は10センチほど。北陸電力志賀(しか)原発から約8キロ離れた石川県志賀町の領家(りょうけ)漁港を訪れた4日、漁師の室(むろ)順一郎さん(71)が海底隆起で一変した光景を眺めて落胆していた。「これでは船が接岸できず、港の機能が果たせない」
能登半島地震は半島の広範囲で隆起をもたらし、輪島市の鹿磯(かいそ)漁港では海底が4メートルも持ち上がった。領家漁港も消波ブロックなどが上がり、防波堤に亀裂やずれができた。室さんは「60~70センチほど上がった」とみる。
◆自然の脅威に向き合わない姿勢
海沿いの道路を南下して原発に近づくと、住民が海岸の異変を感じていた。冬場に採れる岩ノリの漁場が隆起した。辺りは「ノリ島」というコンクリート製の人工漁場が点々と並ぶ。原発から1キロ余りの福浦港(ふくらこう)地区で岩ノリ漁をする能崎(のざき)亮一さん(66)は「40、50センチは上がった。波のかぶりが悪くなり、来年どれだけ採れるか」と話した。
志賀原発は、再稼働の前提となる新規制基準の審査が続く。北陸電は地震時の隆起量を20センチ以下と想定している。その場合でも、水深6.2メートルの取水設備から原子炉を冷やす海水をくみ上げられると主張する。
原発近くで想定を超える隆起が起きたのは確実だ。にもかかわらず、北陸電には危機感がない。今月7日に地震後初めて構内を報道公開した際、隆起の影響を問われた吉田進・土木建築部長は、詳細を説明しないまま「発電所の安全に問題ない」と強調した。自然の脅威に向き合わない姿勢は、大津波の予測に取り合わず福島第1原発事故を起こした東京電力と重なる。
◆電源喪失トラブル、住民に連絡なし
志賀原発では地震で変圧器の配管が破損し、一部の外部電源を失うなどのトラブルが起きた。しかし、北陸電が地元住民に連絡することはなかった。発災当初に区長として避難所の運営を担った能崎さんのところにも説明はなく、テレビで原発の状況を知った避難者から不安の声が相次いだ。
「原発が動く時と動かない時とで、民宿や飲食店の潤い方が違うのを見てきた。再稼働はするんだろう、その方向に進んでほしいと思ってきた」と振り返る能崎さん。地震で原発の危うさと北陸電の不誠実さを見せつけられ、考えは変わった。「そう簡単に再稼働を認めていいのか」(渡辺聖子)
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◆東電は「巨大津波」を検討課題としたが対策せず
原発の冷却 運転中の原子炉の冷却は、海から取り込んだ海水を熱交換器に通して行う。地盤の隆起で海底などにある海水の取水設備が使えなくなると、通常時の冷却ができず、海からポンプ車でくみ上げるなど非常用の注水手段を使って冷却することになる。冷却ができないと、原子炉内の核燃料が過熱して溶け始め、重大事故になる。
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