珠洲で洗濯機無料貸し出し 住民が水くみ手伝う 広がる善意の輪(2024年4月6日『毎日新聞』)

無償の洗濯所で洗濯しながら談笑する洲崎秀成さん(左)と、サービスを始めた田中猛さん=2024年3月21日午後1時47分、高橋隆輔撮影
無償の洗濯所で洗濯しながら談笑する洲崎秀成さん(左)と、サービスを始めた田中猛さん=2024年3月21日午後1時47分、高橋隆輔撮影

 能登半島地震の影響で断水が続く石川県珠洲市蛸島地区で、コインランドリーを経営する田中猛さん(57)が、無料で洗濯機を貸し出している。利用する水は近所の湧き水を軽トラックに乗せて運ぶ。あまりの好評ぶりに、一時田中さんの体力が続かなくなりかけたが、近隣住民が水くみをボランティアで引き受け、運営が安定した。同じ被災者同士で、善意が善意を呼ぶ心温かな輪が生まれている。

 田中さんは、1月下旬に電気が復旧すると、コインランドリーの再開を決定。当初は乾燥機のみのつもりだったが、洗濯機の要望が多数寄せられた。水の調達に頭を悩ませたが、湧き水の使用許可が土地所有者から得られ、農業用のタンクや、使用水量がより少ない二槽式洗濯機も近隣住民から借り受けた。このため、隣接する喫茶店の店先に洗濯機4台を設置し、水は田中さんが運ぶ形で、1月26日から無償で提供している。

 当初は定休日なしの24時間営業で始めると、毎日100人程度が利用。多い日は、運ぶ水は約7トンにものぼった。自身も同市内の自宅が準半壊して避難生活を送っており、睡眠不足も重なって、営業に限界を感じ始めた。

 「このままなら営業をやめます」。2月下旬、SNSで告知すると、状況が一変。水くみボランティアを申し出る近隣住民が現れ、田中さんの負担が軽減された。3月末時点では、田中さんと4人のボランティアがシフトを組み、週4日、午前5時から午前0時までの営業とすることで、持続可能な形態にたどり着いた。

 週1回程度水くみを手伝っている消防士・洲崎秀成さん(33)は、地震に伴う業務が多忙な上、2歳と4歳の子どもを育ててもいる。それでも「『もうこの生活に耐えられない』と心が折れそうになった時にも、気持ちよく、前向きになれる」と、休みのたびに水くみに走る。自身も3週間、避難所生活を送っただけに、自宅に戻れた今は「水が出ない生活がどれだけ大変か分かり、自分が恵まれていることに目が向くようになった。少しずつでもお手伝いができれば」と話す。

 田中さんは「地元のみんなのために何かしたい、待っていても始まらない、という気持ちで始めた。一時は続けられなくなりかけたが、次々と手伝ってくれる人が現れてくれるのが『頑張って続けよう』という元気の源になっています」と表情は明るかった。【高橋隆輔】