断水でも水が使える「井戸」活躍…能登半島地震「重宝な井戸やわいね」 災害時に急いで掘っても大丈夫?(2024年3月10日『東京新聞』)

 能登半島地震では広い地域で断水が続き、今も水の確保ができず問題となっている。水道管が復旧せず、飲み水やトイレ、炊事洗濯などに使う生活用水から、いざというときの消火栓が使えない地域もある。そんな中、井戸が注目されている。直後の急場で既存の井戸が活用され、新しく掘るケースも。普段の生活では廃れつつある井戸の災害時の有用性について考えた。(宮畑譲)

◆依然として1万戸超が断水 生活に使う水に困る

 地震後、能登の水事情は深刻だ。震災から2カ月以上がたつが、8日現在、石川県では輪島、珠洲能登、七尾、内灘の3市2町で計1万6730戸が依然として断水している。珠洲市では、608カ所ある水道管を使った消火栓のうち、9割を超える570カ所が断水の影響で使えなくなっている。
 そんな中、もともとある井戸を使って被災直後の苦境をしのいだ人もいる。
 
断水の中でも貴重な水源となった井戸=石川県珠洲市(記事とは直接関係ありません)

断水の中でも貴重な水源となった井戸=石川県珠洲市(記事とは直接関係ありません)

 「現役バリバリの井戸があって助かったよ。飲み水はペットボトルで何とかなったけど、他はそうはいかん。井戸の水で洗濯したり、温めた湯で顔を拭いたりできた」
 穴水町のカキ養殖業・松村政揮さん(76)は、普段から水道料金を節約するために自宅の納屋にある井戸の水を炊事などで使っていた。この井戸で2月中旬まで続いた断水をしのいだ。被災後は地域の人が水をくみに来たこともあったという。「最近まで飲んでいたし、濁りもあまりなかった。小さいけど、いい水が出る。日照りでも枯れんし、重宝な井戸やわいね」

◆「掘削に1日あれば水を出せるだろう」

 松村さんのように自宅の井戸を活用する人がいる一方、長期間の断水で、新しく井戸を掘るケースも出てきた。
 大阪府吹田市の地質調査会社「メーサイ」は、2月末までに輪島市穴水町などで計14カ所の井戸をボランティアで掘った。2月17日には輪島市三井町で民家の敷地内を掘削。5.5メートル掘り進め、20分ほどで水が湧き出た。
 
重機で井戸を掘り進める作業員=石川県輪島市で

重機で井戸を掘り進める作業員=石川県輪島市

 メーサイの総務担当者は「日本は古来、井戸を使っている。多くの地域で水が出ると思う」とした上で、「水源の調査は別として、掘削に1日あれば水を出せるだろう。本業と技術的には変わらない。地質調査会社なら他社でも同じようにできるはず」と話す。
 災害用の井戸の活用について調査した大阪公立大の遠藤崇浩教授(環境政策学)によると、全国1741市区町村のうち418自治体で、災害用の井戸を明示していた。ただ、こうした制度は都市部に偏在しているという。
 遠藤氏は「飲める水が出る井戸は少ないだろうが、トイレや洗濯には使える。所有者が被災地の中にいるケースが多く、すぐに使えて安い。また、広範囲に分布しているといった利点がある」と指摘する。

◆「井戸水は使っていれば湧いてくる」

 災害時に井戸の有用性が高いということは言えそうだ。ただ、地震が起きて断水が続くからといって、にわかに井戸を掘っても大丈夫なのか。
 石川県の防災会議・震災対策部会長を務める神戸大の室崎益輝名誉教授(防災計画)は「水質が大丈夫なのか、水脈が変わってしまわないか、地権の問題をクリアできるかなど課題はある」としつつ、「水道管はいろんな箇所を修繕しなくては開通せず、復旧が遅れることもある。井戸を掘ったほうが早く水を使える場合もある」と震災後に井戸を掘ることのメリットを挙げる。
 さらに、井戸の有用性には広がりがあるという。「井戸水は使っていれば湧いてくる。普段から生活用水として日常的に使えば環境にもよい。水文化を見直すことが防災にもつながる」