認知症高齢者、迫る「7人に1人」 介護と仕事の両立難題(2024年5月8日『日本経済新聞』)

 

 


認知症患者数は2030年に500万人超となる推計だ

認知症の患者数が2030年に523万人にのぼる見通しとなった。高齢者の14%にあたる7人に1人が認知症患者となる。仕事と介護の両立が困難な人が増えると、経済的な損失は年9兆円に及ぶとの試算もある。介護人材不足の解消や社会保障費の財源確保が急務だ。

厚生労働省研究班(代表者・二宮利治九州大教授)が8日、推計を発表した。認知症患者は22年の推計から80万人増える。50年は587万人、60年は645万人となる。

認知症予備軍」とされる軽度認知障害(MCI)の患者数も増える。MCIとは、認知症の手前の段階にあたり、認知機能が年相応よりも低下している状態を指す。30年に593万人、60年には632万人まで達する推計だ。

政府は2013年度に「認知症施策推進5か年計画」(オレンジプラン)を開始。その後もプランを更新し、介護サービスを担う人材の育成などに取り組んだ。

ただ、厚労省の推計によると、介護人材は2023年度時点で22万人、40年度には69万人が不足するとみられる。政策的に賃金の引き上げを促しているが、それでも人材の確保が難しい。

厚労省は25年度にも、訪問介護サービスで在留資格が「特定技能」の外国人が働けるようにする。外国人人材は各国で奪い合い状態で、円安という逆風も吹く。

介護環境が整わないと、親の介護で仕事を続けられなくなる人が続出してしまう。仕事と介護を両立する「ビジネスケアラー」は増加の一途だ。経済産業省によると、2030年時点で約318万人。経済損失額は年9兆円超で、大企業1社当たりで見ると年6億円超に上る。

今後は予防、治療、介護サービス各段階での取り組みが必要になる。今回の調査は30年時点で認知症が523万人と、14年度推計に比べて約3割下振れした。厚労省は予防など健康意識の変化が背景にあるとみる。

自治体は高齢者が地域のボランティアに参加しやすい仕組みをつくったり、食生活を改善する講座を開いたりしている。人と話す機会を増やし、認知機能の低下を防ぐ。

治療面でも新たな動きがある。認知症に初期段階で気づけば、進行を遅らせる新薬が出てきた。エーザイと米バイオジェンが開発したアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」は23年に米国と日本で承認を取得。実際の患者への投与が始まっている。国内外の製薬大手による認知症薬の開発競争が活発になっている。

介護の現場では人工知能(AI)の活用で、人手不足の解消を狙う。エコナビスタはセンサーで入居者の呼吸数や心拍、睡眠の深さなどを測定して分析し、異常があれば職員に知らせるAIシステムを開発した。

介護の社会保障給付費は、23年度の予算ベースで13.5兆円だった。40年度には25.8兆円に膨らむ見込みで、財源確保は大きな課題だ。