「無添加で汚れ落ちいいのに…」ミヨシ石鹸の洗濯用粉せっけんが製造終了 洗剤の主役交代の事情とは<ニュースあなた発>(2024年4月1日『東京新聞』)

 
 「無添加にこだわった『ミヨシ石鹸(せっけん)』の洗濯用粉せっけんが販売中止になります。なぜ?」。東京新聞「ニュースあなた発」に、埼玉県三芳町フリーランス白田真希さん(56)から質問が寄せられた。粉の洗剤って数えるぐらいしか使ったことがないなと思い、調べてみると、ここ20年で起きた洗剤市場の変化が見えた。(鈴木里奈

◆1960年からのロングセラー「採算難しくなった」

 ミヨシ石鹸は、東京都墨田区にあるせっけんメーカー。1921年創業で「自然由来の天然油脂にこだわり、化学物質は一切使用しない」がモットーだ。
 
無添加にこだわったミヨシ石鹸の粉せっけんは、売り場の棚の一番下にあった

無添加にこだわったミヨシ石鹸の粉せっけんは、売り場の棚の一番下にあった

 同社のウェブサイトを見ると、3月末の販売終了予定商品一覧に「そよ風粉せっけん」があった。容量2.16キログラムで税込み924円。代替商品として同じシリーズの液体せっけん(容量1.1リットルで税込み880円)などが紹介されている。
 「事業としての採算確保が難しくなった」。同社消費者窓口の担当者は説明する。そよ風粉せっけんは、60年から製造販売が始まったロングセラー商品で、2000年代に入るまでは主力だった。だが、液体せっけんに取って代わられ、3月で製造を終えた。同社の粉せっけんの生産量は14年は1230トン、19年は1000トン、昨年は940トンと減少の一途をたどっていた。

◆溶け残り多く、粉末に対応しない洗濯機も

 担当者によると、粉末タイプは洗浄力が高いが、溶け残りが多く使い勝手の悪さから次第に需要が減少。かき回す力が強い2槽式洗濯機と相性が良かったが、最近は粉末に対応していない洗濯機も増えたという。
 
粉せっけんの生産を終えたミヨシ石鹸本社。親会社「玉の肌石鹸」の敷地内にある

粉せっけんの生産を終えたミヨシ石鹸本社。親会社「玉の肌石鹸」の敷地内にある

 昨年12月1日に製造中止を発表すると、愛用者から惜しむ電話が同社に殺到。販売継続を社内で検討したものの、製造設備の老朽化もあり、担当者は「やむなく終了を決めた」と話す。
 白田さんに取材の結果を伝えると「粉せっけんは汚れ落ちがいいので気に入っていたのですが、仕方ないですね」と残念がり、「これからはミヨシの液体せっけんを使います」ときっぱりと言った。
  ◇

◆販売量・金額とも液体洗剤が粉末上回る

 入社した9年前、新聞販売店の研修で新聞購読者に、箱に入った粉の洗濯洗剤を配ったことがある。それ以来ぱったりと見なくなったが、街中で売っているのだろうか。
 墨田区のドラッグストア「くすりの福太郎東向島店」を訪ねた。さまざまな液体の洗濯用洗剤が並ぶ棚の一番下、「ミヨシの粉せっけん」が片隅にひっそりと置かれていた。土屋優希店長(29)によると、週に3、4個売れるという。
 隣には大手メーカーの粉末洗剤も。こちらは週に20〜30個売れるが、液体洗剤はその倍の週50〜60個売れるという。経済産業省の統計でも、2011年に通年で販売量・金額ともに液体洗剤が粉末を上回り、洗濯洗剤の主役が代わった。
 大手メーカーは粉末洗剤から撤退しないのか。最大手の花王中央区)の広報担当者は「粉末ならではの洗浄力もあり、製造過程で溶け残りしない工夫もしている。いろいろなニーズがあり、お応えしていきたい」と回答。花王は23年8月にスティック状の粉末洗剤「アタックZEROパーフェクトスティック」を新たに発売し、大ヒット商品になった。粉末洗剤の逆襲が始まるのかもしれない。

 せっけんと合成洗剤 せっけんは界面活性剤の一種で、動植物の油脂とアルカリを加熱して作る。合成洗剤は石油や天然油脂から作られ、化学合成でできた合成界面活性剤が主成分。商品の成分表示で見分けられる。

 「ニュースあなた発」は、読者の皆さんの投稿や情報提供をもとに、本紙記者が取材し、記事にする企画です。身の回りのモヤモヤや疑問から不正の告発まで、広く情報をお待ちしています。東京新聞ホームページの専用フォーム無料通信アプリLINE(ライン)から調査依頼を受け付けています。秘密は厳守します。詳しくはこちらから