イラン大使館への空爆 中東の戦火拡大防がねば(2024年4月4日『毎日新聞』-「社説」)

イスラエルによるとみられる空爆で破壊された建物=ダマスカスで2024年4月1日、国営シリア・アラブ通信・AP

イスラエルによるとみられる空爆で破壊された建物=ダマスカスで2024年4月1日、国営シリア・アラブ通信・AP

 危険極まりない攻撃である。中東を火の海にしないため、関係国には冷静な対応が求められる。

 シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館内の建物が空爆された。イラン革命防衛隊の司令官ら少なくとも7人が死亡した。在外公館に対する攻撃は異例だ。

 イランは、イスラエルの戦闘機がミサイル6発を発射したと非難し、最高指導者ハメネイ師が報復を宣言した。1979年のイラン・イスラム革命以降、両国は敵対関係にある。

 イスラエル軍報道官は、破壊された建物について、革命防衛隊が在外拠点として利用する「軍事施設」との見方を示した。イスラエルはこれまでも、革命防衛隊幹部を狙った攻撃を実行してきた。

 在外公館や館員の安全はウィーン条約で保障されている。第二次大戦の反省を踏まえ、自由な外交活動を守るために制定された。

 そもそも自衛が目的でない限り、他国への武力行使国連憲章ジュネーブ条約に反する。国際秩序を踏みにじる行為だ。

 パレスチナ自治区ガザ地区で、イスラエルイスラム組織ハマスの戦闘が始まってから間もなく半年になる。懸念されるのは最近、紛争が周辺に波及するリスクが増大していることだ。

 レバノンイスラムシーア派組織ヒズボラは連日、イスラエル北部への攻撃を仕掛けている。革命防衛隊との関わりが深く、イランが支援している。

 また紅海では、イエメンの親イラン武装組織フーシ派がイスラエルと関係のある商船や米軍艦艇を攻撃している。米英両軍が反撃し、緊張が高まった。

 ガザの人道危機は深刻化するばかりだ。犠牲者は約3万3000人に膨らみ、著しい食糧不足に陥っている。ハマスイスラエル市民130人以上を人質に取ったままだ。

 国連安全保障理事会は先週、「即時停戦」を要求する決議を初めて採択したが、イスラエルは拒否した。米国の外交圧力も効果を生んでいない。

 これ以上、戦火が広がれば、世界の混乱に拍車がかかる。惨禍を一刻も早く収束させるため、国際社会はあらゆる手立てを尽くさなければならない。

 

イラン公館空爆 中東での戦闘拡大を憂慮する(2024年4月4日『読売新聞』-「社説」)

 大国のイランとイスラエルが衝突するような事態になれば、中東全体に戦火が広がりかねない。報復の連鎖に陥らないよう、関係国には自制を強く求めたい。

 シリアにあるイラン大使館の領事部がミサイル攻撃を受け、イランの精鋭軍事組織「革命防衛隊」の現地司令官と隊員を含む10人以上が死亡した。

 攻撃は、イランと敵対するイスラエルが行ったとの見方が強い。イスラエルは関与を認めていないが、イランの最高指導者ハメネイ師は「邪悪な(イスラエル)政権は罰を受ける」と述べ、イスラエルへの報復を宣言した。

 だがこれ以上、中東の緊張をエスカレートさせてはならない。

 領事関係について定めたウィーン条約は、在外公館の不可侵を規定している。イスラエルが領事部を意図的に攻撃したのであれば、明らかな国際法違反である。

 中東の紛争の発端は、昨年10月のイスラム主義組織ハマスによるイスラエルへの越境攻撃だ。

 イスラエル自衛権を行使するのは当然だが、パレスチナ自治区ガザではハマスを 殲滅せんめつ すると称して無差別攻撃を行い、多くの民間人が犠牲になっている。イスラエルの軍事行動は明らかに自衛権の限度を超えている。

 イスラエルが、食料など物資のガザへの搬入を制限し、人道危機を深刻化させていることも許されない。住民の支援活動を行っていた米民間団体の車列へのイスラエル軍による誤爆も起こり、団体メンバー7人が死亡した。

 一方、イランが中東の対立を複雑化させているのも事実だ。

 イランはハマスへの支持を公言している。レバノン南部を拠点とするイスラムシーア派組織ヒズボラには、イスラエルと戦うための武器を提供している。

 紅海などで商船を攻撃しているイエメンの反政府勢力「フーシ」も、イランの軍事支援を受けている模様だ。イランが武装組織への支援をやめない限り、危機は高まる一方だろう。

 間もなく半年となるガザでの戦闘を巡っては、国連安全保障理事会が先月下旬、即時停戦を求める決議を初めて採択した。

 米国は拒否権を行使せず、棄権した。イスラエルを支援してきたバイデン政権に対する国際社会の批判が強まり、イスラエルを 庇かば いきれなくなったのではないか。

 決議には法的拘束力がある。イスラエルハマスは国際社会の要請を重く受け止めるべきだ。

 

イラン大使館空爆 中東の緊張抑える外交を(2024年4月4日『信濃毎日新聞』-「社説」


 戦闘の拡大を防ぐため、あらゆる外交努力を尽くす必要がある。

 シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館領事部の建物が空爆され、イラン革命防衛隊の将官ら13人が死亡した。

 イランの最高指導者ハメネイ師は、イスラエルの「犯罪」と断じて、報復を宣言している。

 将官は、レバノンの親イラン民兵組織ヒズボラを支援していた。ヒズボラとの戦闘が激化しているイスラエルが攻撃した可能性が高い。攻撃対象は大使館隣の建物だ。在外公館への直接攻撃は国際法違反であり、看過できない。

 エジプトとサウジアラビアが「いかなる理由であっても、外交施設への攻撃は断固拒否する」と表明するなど、中東の各国は一斉に反発している。

 イスラエルは、イランからシリア経由でヒズボラに武器が輸送されているとみて、シリア領内のイラン関連施設を再三攻撃してきた。今回はこれまでの攻撃レベルを超え、イラン国内で報復を求める声が強まっている。

 イランがイスラエル領土を直接攻撃すれば、イスラエルの同盟国の米国が加わり、中東の戦火が一気に拡大しかねない。各国は冷静に対応しなければならない。

 国連安全保障理事会は攻撃を受けて、緊急会合を開いた。イランやシリアはイスラエルの攻撃が国際法違反であることを非難し、国連や理事国からは戦闘拡大を懸念する声が上がった。

 米国は攻撃への関与を否定し、イランやシリアに緊張を高めないよう要求した。米国に求められているのは、イスラエルに攻撃を自制させることだ。米国の責任は極めて重いと自覚するべきだ。

 イスラエルは、パレスチナガザ地区イスラム組織ハマスとの戦闘が長期化し、人質解放も思うように進んでいない。レバノン国境でのヒズボラとの交戦では、住民約7万人が避難を強いられており、ネタニヤフ政権に対する不満が高まっている。

 専門家には、今回の攻撃で国内の不満の矛先をそらそうとした、との見方も出ている。

 イスラエルはガザ市にある地区最大の病院を再襲撃し、患者21人が死亡、建物や医療機器を完全に破壊した。1日にはガザで活動していた国際的な食料支援団体のメンバー7人がイスラエル軍の攻撃で死亡した。国際法上も人道上も認められない。

 攻撃を重ねれば孤立をより深めるだけである。攻撃を即時停止し、ガザから撤退するべきだ。

 

【イラン公館攻撃】戦闘の拡大を食い止めよ(2024年4月4日『高知新聞』-「社説」)

 中東の広範囲に戦闘が拡大する懸念が強まっている。この地域が不安定化する影響は大きい。これ以上緊張を高めてはならない。各国の冷静な対応が求められる。
 シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館の建物が空爆された。イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」将官らの死亡が伝えられた。
 イランとシリアは、外交施設を標的にしたイスラエルの攻撃であり、国際法や条約違反だと非難する。イランの最高指導者ハメネイ師はイスラエルへの報復を宣言した。
 イスラエルレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラから越境攻撃を受けている。ヒズボラ支援の中核を担うイランがシリア経由で武器を提供しているとみて、イスラエルはシリア領内への攻撃を行ってきた。公館への攻撃はイランとの対決姿勢の強化を印象づける。
 パレスチナ自治区ガザでは、イスラエル軍と、イランが後ろ盾のイスラム組織ハマスとの戦闘が続く。イランを本格的に巻き込んだ紛争へと発展しかねない状況だ。
 国連安全保障理事会の緊急会合で、国連や各国から懸念の声が相次いだ。米国は関与を否定しているが、イランはイスラエルを支援する米国にも責任があると主張した。
 安保理では先月、ガザでイスラム教のラマダン(断食月)期間中の即時停戦を求める決議案が採択されている。昨年10月の戦闘開始以降、短期間の戦闘休止や人道支援強化を求める決議を採択しているが、イスラエルハマスに停戦を求める決議は初めてだった。
 米国は停戦を盛り込んだ決議案にはことごとく拒否権を行使してきたが、この時は行使せず棄権した。ガザでは病院や食料支援団体がイスラエル軍の攻撃を受けている。食料不足で飢餓が広がり、餓死者も出ている。各国は米国への非難を強めていた。再選をにらむバイデン大統領も、状況を放置できないと判断したのだろう。
 イスラエルは米国の対応を非難し、米国はイスラエル支援の方針は変わっていないとする。だが、両国の関係が揺らいでいることは明白だ。イスラエルでは人質解放が進まないまま戦闘が長期化していることに、ネタニヤフ政権への不満が高まっている。政権維持をにらめば強硬姿勢を崩せないのが実情のようだ。これでは国際社会からの支持を得られはしない。
 イランは報復を打ち出したが、本格的な攻撃は米国の参戦が警戒される。一方で国内の強硬派も無視できず、方策を探っているとみられる。意図しない紛争に発展し戦火を拡大させないよう、互いが慎重に対処する必要がある。
 国連のグテレス事務総長は、民間人への壊滅的被害を防ぐため各国に自制を呼びかけた。被害が拡大し、人道状況が深刻化するガザでの継続的な停戦が重要性を増す。イスラエルは恒久停戦を拒否し、説得は困難を伴うが、平和的解決へ国際社会の粘り強い取り組みが欠かせない。