イラン大使館空爆に関する社説・コラム(2024年4月3日)

 
大使館への攻撃でイラン革命防衛隊の将官らが死亡したと同国メディアは伝えた=AP
 
 
イラン公館攻撃 報復せず外交解決図れ
2024年4月3日 5:00
あとで読む
あとで読む
Xで共有する
Facebookで共有する
この記事を共有する
 中東シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館の建物がミサイルで攻撃され、イラン革命防衛隊の将官らが死亡した。
 在外公館が標的となるのは異例だ。イランはイスラエルの攻撃だと強く非難し、報復を宣言した。イスラエルは言及を避けている。
 地域大国のイランと敵対するイスラエルが衝突すれば中東全域に混乱が拡大し、イスラエルを支援する米国も参入しかねない。原油価格に影響が生じる恐れもある。
 双方とも対抗措置を抑制し、暴力を連鎖させてはならない。
 昨年10月にパレスチナ自治区ガザでイスラム組織ハマスと戦闘を始めて以降、イスラエルは隣国のシリアやレバノンの親イラン勢力への攻撃を繰り返している。
 親イラン勢力はパレスチナへの連帯を示している。ガザでの戦闘を終結させない限り、中東の危機は高まる一方だ。
 イスラエルは一刻も早くガザでの軍事作戦をやめ、ハマスと恒久的な停戦を実現する必要がある。
 イスラエルは、イランがハマスレバノン民兵組織ヒズボラに武器などを提供しているとみて、その支援拠点があるシリア領内を攻撃している。
 昨年末にはイラン革命防衛隊の上級軍事顧問が殺害され、イランはイスラエルの仕業と断定した。
 レバノンとの国境周辺ではヒズボラとの衝突が激化しており、イスラエルが本格的な戦闘に踏み切るとの観測が強まっている。
 紅海で商船への攻撃を繰り返すイエメンの親イラン武装組織フーシ派には、米軍が報復している。
 極めて危険な情勢だ。
 一方で、イスラエルではネタニヤフ政権への反発が強まっている。ハマスによる人質の解放を実現できていないとして、数万人規模の反政権集会が開催された。
 ネタニヤフ氏は国内の不満をそらす狙いで、対外的な強攻策に出ているのではないか。
 イランと対立する米国を本格的に巻き込みたい思惑もあろう。
 バイデン政権はイスラエル支援への非難が国内外で強まり、苦しい立場に置かれている。イスラエルがイランと衝突すれば、イランと対立する米国も無視できないとみているのだろう。
 米国とイランが対決すれば紛争は一気に拡大しかねないため、双方とも避けたいのが本音だ。何としても自制を続けてもらいたい。
 国連安全保障理事会は緊急会合の開催を決めた。衝突拡大の回避に向けて今度こそ結束する時だ。
 
イラン大使館空爆による衝突拡大を防げ(2024年4月3日『日本経済新聞』-「社説」)
 
 シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館の周辺が空爆を受けた。イランはイスラエルによる攻撃だと主張している。両国は激しく敵対してきたが、在外公館への攻撃は一線を越えている。対立をエスカレートさせ、報復合戦と中東全体への衝突拡大につながりかねない危うさをはらむ。双方に強く自制を求めたい。

 空爆によってイラン精鋭部隊の革命防衛隊の幹部らが死亡したという。イスラエル側は今回の攻撃を公には認めていない。

 イスラエルとイランはかねて互いを脅威とみなしてきた。暗殺やサイバー攻撃で応酬する一方、直接の交戦は慎重に避けてきた。

 軍事行動のハードルが下がる背景となったのが、パレスチナ自治区ガザで長引くイスラエルイスラム組織ハマスの戦闘だ。7日で開始から半年がたつが、収束はみえない。衝突の広がりを避けるには、危機の震源であるガザの戦闘を終わらせなければならない。

 保健当局によれば、ガザでの戦闘による住民の死者は3万2千人を超えた。飢餓の恐れも強い。民間人のこれ以上の犠牲や人道危機の深まりは看過できず、支援物資の搬入を加速するのが急務だ。

 即時停戦を求める国際的な圧力は強まっているが、イスラエルのネタニヤフ首相は強硬姿勢を貫くことで国内の求心力を保とうとしている。ガザだけでなく、北隣のレバノンやシリアでも自国への脅威を軍事力で排除する構えだ。

 イランの最高指導者ハメネイ師は3月末、ハマスの最高指導者と会い親密さを誇示した。レバノンやシリアでもイランが裏で糸を引いているとイスラエルはみる。

 イランは経済が苦しく、イスラエルの消耗を歓迎こそすれ、自らが戦闘に引きずり込まれる事態は望んでいない。だが今回の空爆を受けて、本格的な報復に乗り出すことになれば厄介だ。

 イランとイスラエルの軍事衝突は、世界のエネルギー供給や企業活動に多大な制約を与える。イランの代理勢力には国際海運の要衝である紅海で商船攻撃を重ねるイエメンの武装組織もある。世界経済への打撃はイスラエルハマスの衝突の比ではない。

 国連安全保障理事会は今回の攻撃について協議するため、緊急会合を招集した。中東危機の負の連鎖を何としても食い止めるため、日本を含めた国際社会は足並みをそろえて行動する必要がある。