防衛インフラ整備 軍事利用の拡大を懸念(2024年4月3日『沖縄タイムス』-「社説」)

 総合的な防衛体制の強化に向けた政府の公共インフラ整備を巡り、那覇空港と石垣港が「特定利用空港・港湾」に指定された。有事の際に自衛隊海上保安庁が使うことを想定し、平時も利用しやすい環境を整えていく。日頃は民生利用であることを政府は強調するが、米軍の利用につながる可能性も否定できず、軍事的な利用のさらなる拡大が懸念される。


 政府は2022年12月、国の安全保障に関する基本方針として「国家安全保障戦略」を決定した。今回の「特定利用空港・港湾」の指定は、同方針に基づく。

 林芳正官房長官は「攻撃を未然に防ぐための抑止力、対処力を高め、わが国への攻撃可能性を低下させる」と説明した。そして政府はこの枠組みに、米軍が参加することはないとしている。

 日米地位協定の下で米軍は既に民間の港への出入りを強行している。石垣港には実際、県の自粛要請を押し切る形で昨年9月に米海軍の掃海艦が、今年3月にはミサイル駆逐艦がそれぞれ入港した。自衛隊と米軍の一体化が進み、共同訓練も増えている中で、米軍の利用は訓練の一環だと押し切られることも予想される。

 政府は那覇空港や石垣港にとどまらず、県内に残り10ある港や空港にも指定を広げたい考えだ。玉城デニー知事は「整備後の運用などに不明な点が残されている」として、県管理の施設の指定には慎重な姿勢を示している。軍事色を帯びた事業にためらうのは当然である。

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 「特定利用空港・港湾」になれば、他国から攻撃の対象になるのではないかという自治体や住民からの懸念について、政府がはっきりと否定していることにも疑問を抱かざるを得ない。

 「特定利用空港・港湾」の整備は、紛れもなく有事への備えであり、軍事機能の強化に他ならないからだ。

 一方で内閣官房が公開しているQ&Aは「攻撃目標とみなされる可能性が高まるとはいえない」と明言している。空港や港湾の整備で、自衛隊の基地や駐屯地が新設されたり、既に行われている利用の仕方に大きな変化が出たりすることはない、というのがその理由だ。

 しかし、軍事的な目的がある空港や港湾が、攻撃の対象になることは既に歴史が証明している。政府は「特定利用空港・港湾」が併せ持つリスクについても説明するべきである。

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 岸田文雄首相は参院決算委員会で、台湾に近い先島諸島の住民が危機に直面した場合の支援策について問われ「武力攻撃を想定したシェルターの確保について指示をしてきた」とした。だが先島諸島のどこに大勢の住民が避難できるシェルターを造るというのか。

 政府は非常事態に備え、先島諸島から九州各県と山口県に約12万人を避難させる計画を急ぐが、どれもリアリティーに欠けている。

 防衛力の強化のみに偏重し、住民保護が後回しの姿勢は明らかだ。