防衛省・自衛隊

 

防衛力の強化に向けて政府は、自衛隊海上保安庁が訓練などで円滑に使えるように整備・拡充する「特定利用空港・港湾」に、全国の合わせて16の空港と港を指定することを決めました。

有事に備え 全国16の空港と港を「特定利用空港・港湾」に

政府は、有事に備え各地の空港や港を「特定利用空港・港湾」に指定し、自衛隊海上保安庁の航空機や艦船などが訓練などで円滑に使えるように整備・拡充する方針で、自治体と協議しながら指定先の検討を進めてきました。

そして、1日、関係閣僚会議を持ち回りで開き、調整の整った全国の合わせて16の空港と港を指定することを決めました。

空港は那覇空港など5か所 

那覇空港

指定された空港は▽那覇空港、▽宮崎空港、▽長崎空港、▽福江空港、▽北九州空港の、沖縄と九州の5か所です。

港は石垣港など11か所 

石垣港

港は▽石垣港、▽博多港、▽高知港、▽須崎港、▽宿毛湾港、▽高松港、▽室蘭港、▽釧路港、▽留萌港、▽苫小牧港、▽石狩湾新港の、沖縄、九州、四国、北海道の11か所です。

政府は、いずれの空港や港も民間利用を主体とすることは維持しつつ、必要に応じて滑走路の延伸や岸壁の拡張などを進める計画です。

また、「特定利用空港・港湾」のさらなる指定に向け、引き続き自治体との調整なども進めていく方針です。

官房長官「訓練などで利用 国民保護などに資する」 

官房長官は午後の記者会見で「自衛隊海上保安庁が訓練などで円滑に公共インフラを利用できるようにすることは国民保護や部隊の展開、災害時の対応などに資するものだ。引き続き自治体などとの調整を丁寧に行い、整備の取り組みを推進していきたい」と述べました。

一方、記者団が「指定されると軍事拠点とみなされ、攻撃目標となるリスクがあるとの指摘もあるが」と質問したのに対し「新たに自衛隊の基地や駐屯地を設置することを目的とするものではなく、自衛隊海上保安庁はこれまでも民間の空港・港湾を利用してきている。平素の利用に大きな変化はなく、そのことのみで当該施設が攻撃目標とみなされる可能性が高まるとはいえない」と述べました。

国土交通省 “必要な整備促進” 空港滑走路の延長などを想定

国土交通省は、空港法や港湾法に基づいた「基本方針」を改正し、「特定利用空港・港湾」では自衛隊海上保安庁が平時から円滑に使えるよう、国土交通省防衛省と空港や港の管理者の間に枠組みを設け、必要な調整を実施するとともに、民間の利用を主体としつつ自衛隊海上保安庁のニーズも考慮して必要な整備などを促進するという内容を盛り込みました。

「必要な整備」は空港の滑走路の延長や港の岸壁の拡張などが想定されているということです。


「特定利用空港」には沖縄県、宮崎県、長崎県、福岡県の4つの県の5つの空港が指定されました。

このうち国の管理は4つ、県の管理は1つで、「防衛体制の強化に資する公共インフラ整備」の費用として222億円が配分されました。

沖縄県那覇空港は国の管理で、3000メートルと2700メートルの2本の滑走路があります。

▽宮崎県の宮崎空港は国の管理で、2500メートルの滑走路があります。

長崎県の▽長崎空港は国の管理で、3000メートルの滑走路があり、▽福江空港長崎県の管理で2000メートルの滑走路があります。

▽福岡県の北九州空港は国の管理で、2500メートルの滑走路があります。

また、「特定利用港湾」には、沖縄県、福岡県、高知県香川県、北海道の5つの県と道で11の港が指定されました。

このうち県の管理は4つ、市の管理は5つ、複数の自治体でつくる組合による管理が2つで、「防衛体制の強化に資する公共インフラ整備」の費用として148億円が配分されました。

沖縄県の石垣港は石垣市の管理で、最大水深は10メートル50センチです。

▽福岡県の博多港は福岡市の管理で、最大水深は15メートルです。

高知県の▽高知港の最大水深は12メートル、▽須崎港の最大水深は10メートル、▽宿毛湾港の最大水深は10メートルで、いずれも高知県の管理です。

香川県高松港は県の管理で、最大水深は12メートルです。

北海道の▽室蘭港は室蘭市の管理で最大水深は14メートル、▽釧路港釧路市の管理で最大水深は14メートル、▽留萌港は留萌市の管理で最大水深は12メートル、▽苫小牧港は組合の管理で最大水深は14メートル、▽石狩湾新港は組合の管理で最大水深は14メートルです。

専門家「政府は指定のメリットとデメリット説明を」 

政府が、全国の合わせて16の空港と港を「特定利用空港・港湾」に指定したことについて、国際政治や安全保障論が専門の東京工業大学の川名晋史教授は「有事や自然災害のリスクに備えることが指定の背景にあり、自衛隊の機動展開能力の向上や国民保護を行う環境が整備されることになる。政府の立場から見れば合理的なものだ」と指摘しています。

また、九州・沖縄だけでなく四国や北海道の港湾が指定されたことについて「四国の港湾は、太平洋に出やすく南西諸島からのアクセスもよいという特徴がある。北海道には多くの陸上自衛隊の部隊や物資があり、南西地域に輸送するためにも多くの港湾を指定したと考えられる」と指摘しています。

一方で、指定される空港と港について「平時の民間利用に支障をきたさないように、利用の優先順位などのルールを明確にする必要がある。アメリカ軍などの外国軍による使用も法的には可能であり、有事の際には攻撃の対象になるなど、これまであまり身近でなかった安全保障上のリスクを抱えることになる。今回、災害対応や平時の利用が前面に出された説明がなされているが、政府はメリットとデメリットを包み隠さずに説明することで住民の不安を除去していく必要がある」と話しています。