政府は1日、石垣港(石垣市)と那覇空港(那覇市)を、自衛隊や海上保安庁の利用円滑化を前提に優先的に整備する「特定利用空港・港湾」に位置づけた。
有事を見据え、部隊の展開や訓練ができる施設を整備することが主目的だ。戦闘機や大型輸送機が離着陸できるよう駐機場を整備したり、大型艦船が接岸できるよう水深を掘り下げたりする計画である。政府が特定利用空港・港湾の整備を急ぐのは中国の海洋進出や台湾有事への対応を意図したものであろう。
政府は空港や港湾の強化について「(住民を避難させる)国民保護にも役立つ」と繰り返し、「わが国への攻撃を未然に防ぐ抑止力を高めるものであり、ひいては国民の安全につながる」と強調する。しかし、そのような説明で済むのだろうか。
1944年の10・10空襲で軍事拠点として整備された中飛行場(現在の嘉手納飛行場)や読谷村の北飛行場、日本軍の船舶が出入りした那覇港や本部町の渡久地港が米軍の激しい攻撃にさらされた。同様に「特定利用空港・港湾」に指定され、自衛隊や海保の訓練などに使用される施設は当然、有事の際は攻撃の標的となり得る。政府が物流や観光など地域メリットのみを強調するのは不誠実な態度だ。指定の可否を自治体が判断できるようリスクも説明すべきだ。
予算の配分も問題だ。政府は県内での「特定利用空港・港湾」の整備について、沖縄関係予算の「公共事業関係費等」の枠内で予算付けしており、国策に協力的な自治体が優先的に予算を獲得できる仕組みになっている。「軍民共用」に慎重な自治体が割を食うことになりかねず、公平性からも疑問が残る。
政府は県内12カ所の空港と港湾を指定候補に挙げていた。県は慎重な姿勢を保っていたために、管理者が前向きな意向を示している石垣港と国管理の那覇空港を選定した。
石垣市の中山義隆市長は自衛隊施設が新たに整備されるわけではないとした上で「これまでの港湾計画も変わらないので、市民に説明して合意形成は必要はないと考える」と述べた。市管理の港が軍事拠点となることへの危機感を持つべきではないか。
沖縄には既に全国の米軍専用施設の約7割が集中し、自衛隊の強化も進行中だ。民間施設まで軍事利用することは沖縄全体が軍事要塞(ようさい)化することに他ならない。
そもそも空港や港湾が攻撃されれば、住民はどうやって避難すればいいのか。有事の際は軍事が優先され、住民は二の次になることは明らかだ。沖縄戦から私たちが得たのは「軍隊は住民を守らない」という教訓のはずだ。
政府は、軍事拠点の整備によって緊張状態をさらに悪化させるのではなく、緊張緩和のため外交努力をすべきだ。