少子化対策(子育て支援金)に関する社説・コラム(2024年4月3日)

衆院本会議で、児童手当の拡充などを柱とした少子化対策関連法案の趣旨説明をする加藤鮎子こども政策相=2日

 

子育て支援金 負担増を隠し続けるのか(2024年4月3日『東奥日報』-「時論」/「山形新聞」-「社説」/『茨城新聞山陰中央新報佐賀新聞』-「論説」)

 政府は、少子化対策の財源確保のため公的医療保険料に上乗せする「子ども・子育て支援金」について、月平均徴収額の試算を公表した。支援金創設を盛り込んだ関連法案が衆院本会議で審議入りし、論戦の的となる。

 実際に支援金を払う「被保険者」1人当たりの負担額は段階的に増え、2028年度で共済組合に入る公務員らが最も多い950円。次いで健康保険組合に入る大企業の会社員が850円。最も低いのは75歳以上の人で350円になるという。

 世帯ごとの実際の徴収額は、所得が多かったり夫婦共働きだったりすれば高額になるはずだ。ところが公表されたのは、加入する医療保険別の平均のみで現実的なモデルケースを示さなかった。

 岸田文雄首相は子どもなども含む「加入者」1人当たりで「平均500円弱」と説明してきた。それは今回「450円」と再提示。ただ加藤鮎子こども政策担当相は月千円超になる場合もあると国会で指摘したが、結局これに対する「回答」はなかった。負担を小さく見せる狙いさえ感じる。

 国民は新たな負担がいくらか具体的に知りたい。政府はその当然の疑問に答えようという姿勢を欠く。「負担増なし」を繰り返す首相に調子を合わせるため隠し続ける意図なら、国民への背信行為と言わざるを得ない。野党が「ごまかし」と批判するのも当然だろう。

 首相は、歳出改革で医療や介護などの社会保険料の伸びを抑え、賃上げの効果も加味すれば「実質的な負担は生じない」と言う。その判断指標には「社会保障の国民負担率」を挙げるが、今回の試算でも「負担増なし」が実現できるとする根拠は示せていない。

 政府関係者は、加入者1人当たりの支援金額は「今支払っている医療保険料の4~5%」とした上で「その分、医療保険料を抑制できれば負担増ゼロになる」と説明する。しかし高齢化で医療保険料は今後も自然増が続き、歳出改革をしても目に見える保険料減額は簡単ではない。それがこの国の現実だ。そのためこの関係者も「実際には見えにくい『負担増なし』になる」と認めている。

 毎月の給与明細で新たな支援金が天引きされることになる以上、国全体の「負担率」がどうあろうと各世帯には現に負担増と言うほかあるまい。

 首相は「異次元の少子化対策」に効果があり、最大3兆6千億円必要な財源のうち1兆円を支援金で集めることも理があると太鼓判を押せるか。そうなら、必要な負担増だと正面から国民に説明し理解を得るべきだ。それをしないなら政策で結果を出す自信がないと見られても仕方あるまい。

 試算では、支援金創設によって子ども1人当たり、妊娠から18歳になるまでに計約146万円の給付拡充が実現するとの数字も示した。

 多くを現役世代が負担することになる支援金は、支えるべき子育て世帯の可処分所得を減らす。少子化対策に逆行するとの批判があるのに対し「負担を上回る給付がある」と反論するためだ。

 高齢者の大半は年金生活であり、現役世代に負担が偏ることはやむを得ない流れだろう。だがその中でも、子育て世帯の負担と給付のベストバランスをさらに追求していく必要はある。同時に、資産の多い高齢者には負担を多めに求めることも今後検討せざるを得まい。(共同通信・古口健二)

 

少子化対策審議入り 負担の具体像示してこそ(2024年4月3日『河北新報』-「社説」)

 

 子育て支援の充実が必要であることは、もはや国民的な合意事項と言っていい。問題は政府が財源を巡る国民負担の議論に真摯(しんし)に向き合おうとしていないことだ。

 受けの良い給付拡大ばかり先行してアピールするような議論の進め方では、政策の可否は判断できない。基本的な理念や必要性、期待される効果とともに、給付と負担の在り方についても逃げることなく十分に説明すべきだ。

 後半国会の焦点の一つとなる少子化対策関連法案が、きのうの衆院本会議で審議入りした。児童手当の拡充などを柱とする対策に今後3年間に年最大3兆6000億円規模の予算が投じられる。

 最大の論点は、財源として2026年度に創設する「子ども・子育て支援金」制度。

 公的医療保険料に上乗せする形で国民から広く徴収するとしているが、政府が先週公表した負担額の試算は、家計への影響が分かりにくい、不十分な内容だった。

 こども家庭庁によると、支援金の総額は26年度の約6000億円から段階的に増やし28年度に満額の1兆円を確保する方針。負担額も1年ずつ増えるが、金額は加入する医療保険別に異なり、所得水準によっても変動するという。

 ところが、試算結果で示したのは保険別の平均額だけ。 例えば、被雇用者の28年度の平均額は(1)大企業の健保組合では850円(2)中小企業の全国健康保険協会協会けんぽ)は700円(3)公務員らの共済組合は950円-といった具合だ。

 これでは、それぞれの家計にどれだけ負担が生じるのかほとんど分からない。国民が知りたいのは、具体的に「子ども1人、夫婦共働きで所得500万円の家族なら何円」といった情報だろう。

 岸田文雄首相は2月の国会審議で月平均の負担額を「500円弱」と答弁。野党から「分かりにくい」「実質増税だ」との批判を浴びた。あれから2カ月近くが経過したにもかかわらず、なぜ、いまだに世帯類型や所得別の試算を示せないのか。

 支援金制度を巡り、岸田首相は「実質的な追加負担はない」との説明を繰り返し、きのうも「歳出改革による保険料負担の軽減効果の範囲内」と強調した。

 「実質負担ゼロ」が本当かどうか判断するのは国民だ。粗雑な試算結果では、かえって不都合な情報を隠しているのではないか、との疑念さえ招きかねない。

 政府は支援金について、子育て世帯を支える「新しい分かち合い・連帯」の仕組みと位置付けるが、負担の具体像が見えなければ、連帯の前提も欠くことになろう。

 23年の出生数(速報値)は過去最少の75万人台となり、少子化は加速している。必要な負担について正面から国民の理解を求めるのが、政治本来の役割であるはずだ。

 

子育て支援金の試算 負担増を隠し続けるのか(2024年4月3日『福井新聞』-「論説」)


 少子化対策の財源確保のため公的医療保険料に上乗せして徴収する「子ども・子育て支援金」を盛り込んだ関連法案が国会で審議入りした。これに先立ち政府は支援金の月平均徴収額の試算を公表したものの、加入する医療保険別の平均のみで徴収額を極力、小さく見せたい意図さえ感じている人も少なくないだろう。

 実際に支援金を払う「被保険者」1人当たりの負担額は段階的に増え、2028年度で共済組合に加入する公務員らが最も多い950円と試算。次いで健康保険組合に入る大企業の会社員が850円。最も低いのは75歳以上の高齢者で350円になるという。ただ、世帯ごとの実際の徴収額は所得が多かったり、夫婦共働き世帯だったりすれば高額になるはずだ。

 ところが、公表されたのは加入する医療保険別の平均のみで実態に合ったモデルケースなどは示されなかった。岸田文雄首相は2月の国会審議で月平均負担額を「500円弱」と答弁してきた。「分かりにくい」と批判されたが、今回の試算はその域を超えていない。例えば、子ども1人、夫婦共働きで所得500万円の家族はいくら徴収されるのか。知りたいのはこういった情報だろう。

 「負担増なし」を繰り返す首相に調子を合わせるため隠し続ける意図なら、国民に対する背信と言わざるを得ない。野党が「ごまかし」と批判するのも当然のことだ。首相は歳出改革で医療や介護などの社会保険料の伸びを抑え、賃上げの効果も加味すれば「実質的な負担は生じない」としてきた。その判断指標に「社会保障の国民負担率」を挙げるが、今回の試算でも詳しい根拠は示さなかった。

 政府関係者は加入者1人当たりの支援金額は今支払っている医療保険料の「4~5%」とした上で、「その分、医療保険料を抑制できれば負担増ゼロになる」と説明する。だが、高齢化で医療保険料は今後も自然増が続き、歳出改革をしても保険料減額は一筋縄ではいかない。毎月の給与明細で新たな支援金が天引きされることになる以上、国全体の「負担率」がどうであろうと、各世帯には現に負担増と言うほかない。

 本社加盟の日本世論調査会の全国郵送世論調査によると、少子化に「危機感がある」は「どちらかといえば」を含め計88%に上り、費用を全ての世代で広く負担するという政府方針には計63%が賛成している。少子化を打開しなければという危機感が広がってきている証左だろう。ならば、首相が「追加の負担をお願いします」と率直に伝えることで、国民の理解は得られよう。それをしないなら政策で結果を出す自信がないと見られても仕方がない。

 

子育て支援金 具体的な負担額示さねば(2024年4月3日『新潟日報』-「社説」)

 具体的な負担額を政府が示さねば、制度に対する信頼は得られない。首相は「実質的な追加負担は生じない」と強調するが、本当なのか。国会での徹底した議論が求められる。

 子ども・子育て支援金制度を盛り込んだ少子化対策関連法案が2日、衆院で審議入りした。

 これに先立ち、政府は、少子化対策の財源確保で公的医療保険料に上乗せする支援金に関し、月平均徴収額の試算を公表した。

 被保険者の月平均負担額は、実際に支援金を払わない子どもらを含め、加入者1人当たり、2028年度に450円とした。これまで月500円程度として検討を進めていたが精査した。

 負担が最も大きい公務員らの共済組合は950円、75歳以上の後期高齢者医療制度は350円などと試算した。

 だが、公表は医療保険別の額だけで、実際の負担額は、共働きかどうかや所得で異なる。

 所得が多い人は負担がどれだけ増えるのかや、共働きで子ども1人の世帯ならいくら徴収されるのかなどのモデルケースは示さなかった。これでは、家計への影響が実感できない。

 政府は少子化対策に、今後3年間で3兆6千億円の財源が必要としており、支援金制度は財源確保策の柱の一つだ。

 徴収は26年度に開始し、総額6千億円から順次引き上げ28年度に1兆円とする。これに伴い負担額も段階的に増える。

 岸田文雄首相は、支援金制度について「実質負担ゼロ」を繰り返す。2日の国会審議でも「歳出改革による保険料負担の軽減効果の範囲内で行う。国民の新たな負担を求めない」と述べた。

 しかし、徴収によって家計の負担が増えることに変わりはない。負担増のイメージを避ける思惑が透けて見える。

 日本世論調査会が3月にまとめた少子化に関する調査では、支援金制度を巡る首相の説明に「納得できない」は「あまりできない」を合わせ81%だった。国民に理解されていないことは明らかだ。

 自民党議員からさえも「負担ゼロは詭弁(きべん)だ」との声が出ている。野党は「実質上の子育て増税だ」として追及する構えだ。

 支援金は現役世代から高齢者まで幅広く徴収するが、子育て世帯以外は負担に見合う利益が得られない可能性があるとし、制度に否定的な考えを示す識者もいる。

 医療保険という目的が異なる制度からの財源調達は、「給付と負担」の論理が崩れてしまうという見方もある。

 昨年の出生数は過去最少の75万人台まで落ち込み、想定を上回るスピードで少子化が進んでいる。

 支援金は異次元の少子化対策を実現する手法としてふさわしいのか、吟味しなくてはならない。

 

子ども・子育て支援金(2024年4月3日『宮崎日日新聞』-「社説」)

◆負担増なら正面から説明を◆

 政府は、少子化対策の財源確保のため公的医療保険料に上乗せする「子ども・子育て支援金」について、月平均徴収額の試算を公表した。支援金創設を盛り込んだ関連法案が衆院本会議で審議入りし、論戦の的となる。

 実際に支援金を払う「被保険者」1人当たりの負担額は段階的に増え、2028年度で共済組合に入る公務員らが最も多い950円。次いで健康保険組合に入る大企業の会社員が850円。最も低いのは75歳以上の人で350円になるという。

 世帯ごとの実際の徴収額は、所得が多かったり夫婦共働きだったりすれば高額になるはずだ。ところが公表されたのは、加入する医療保険別の平均のみで現実的なモデルケースを示さなかった。

 岸田文雄首相は子どもなども含む「加入者」1人当たりで「平均500円弱」と説明してきた。それは今回「450円」と再提示。ただ加藤鮎子こども政策担当相は月千円超になる場合もあると国会で指摘したが、結局これに対する「回答」はなかった。

 国民は新たな負担がいくらか具体的に知りたい。政府はその当然の疑問に答えようという姿勢を欠く。「負担増なし」を繰り返す首相に調子を合わせる意図なら、国民に対して不誠実な態度と言わざるを得ない。

 首相は、歳出改革で医療や介護などの社会保険料の伸びを抑え、賃上げの効果も加味すれば「実質的な負担は生じない」と言う。その判断指標には「社会保障の国民負担率」を挙げるが、今回の試算でも「負担増なし」が実現できるとする根拠は示せていない。

 政府関係者は、加入者1人当たりの支援金額は「今支払っている医療保険料の4~5%」とした上で「その分、医療保険料を抑制できれば負担増ゼロになる」と説明する。しかし高齢化で医療保険料は今後も自然増が続き、歳出改革をしても目に見える保険料減額は簡単ではない。それがこの国の現実だ。そのためこの関係者も「実際には見えにくい『負担増なし』になる」と認めている。

 毎月の給与明細で新たな支援金が天引きされることになる以上、国全体の「負担率」がどうあろうと各世帯には現に負担増と言うほかあるまい。

 首相は「異次元の少子化対策」に効果があり、最大3兆6千億円必要な財源のうち1兆円を支援金で集めることも理があると太鼓判を押せるか。そうなら、必要な負担増だと正面から国民に説明し理解を得るべきだ。それをしないなら政策で結果を出す自信がないと見られても仕方あるまい。