少子化対策法案 正面から負担増の議論を(2024年2月28日『東奥日報』-「時論』/『茨城新聞・山陰中央新報・佐賀新聞』-「論説」)

鳥取県日吉津村の子育て施設を訪問し、子どもたちと記念写真に納まる岸田文雄首相(後列右から2人目)=2023年7月31日(代表撮影)

 

公的医療保険料と併せて徴収する「子ども・子育て支援金」の創設を柱とした少子化対策関連法案が国会に提出された。児童手当育児休業給付の拡充といった対策には今後3年間に年最大3兆6千億円の追加財源が必要になる。ならば岸田文雄首相は、税制も含む負担増の議論に逃げずに正面から応じるべきだ。

 財源確保のため支援金を2026年4月に創設し、28年度には1人当たり月平均500円弱、総額1兆円を徴収する。実際の負担額は加入する医療保険や経済的能力で変わり、政府は千円超のケースもあり得ると認めたが、まだ個別ケースごとの金額を示していない。

 賃上げ社会保障の歳出改革で社会保険料の伸びを抑え、その範囲内で支援金を徴収するから実質的に負担増はない-が政府のうたい文句だ。国の財政と各家庭の財布の中身を一緒くたにするような議論の上、医療・介護従事者の賃上げに伴う保険料上昇分は負担増にカウントしないという。これで「負担増なし」と言われても国民は納得できまい。政府はケースごとの具体的負担額を示し説明を尽くすべきだ。

 首相は「支援金は税か保険料か」と国会で問われ、「保険料として整理される」との見解を示した。医療保険料と共に徴収するから社会保険料とするのは自然かもしれない。だが問題点はある。

 社会保険制度とは何か。病気、けが、老いなど誰もがいずれ直面するリスクに備え、広く薄く保険料を負担することで、相当する給付を受ける強制加入の相互扶助システム。いわば国家規模の互助会だ。自分の納めたお金がどこで誰のためにどう使われたか見えにくい税に比べ、保険料を払った見返りとしての受給権が明確なため、負担への合意が得られやすいのが社会保険料の特徴だ。

 子育て支援金はどうか。少子化傾向が止まれば、年金、医療、介護など社会保険の支え手が増え、誰もが恩恵を受ける。これを根拠に政府は支援金制度を、全世代で出産、子育てを支える社会保険の一環と位置付けたようだ。だが子育てを終えた世帯、子どものない夫婦には保険料負担に対する直接の見返りがない。「互助会」としては無理があり、少子化対策目的税として徴収する方が分かりやすいとの意見が出るのも当然だ。

 支持率低迷の苦境が続き、今後は防衛増税などの課題も抱える岸田政権にとって、負担増はタブーだ。何とか負担増イメージを避けつつ必要な財源を確保したい。それには保険料と位置付けた支援金で押し切るほかない-。これが政権の本音だろう。

 支援金は、子育て世帯には軽減措置を設けるが、主に現役世代が負担するという難点もある。支援すべき子育て世帯の可処分所得が減るようなら少子化対策に逆行する。

 歳出面についても、児童手当拡充など現に子育て中の世帯への給付中心で少子化傾向を反転できるのか、という懸念が残る。少子化の最大要因である未婚・晩婚化に手を打つには、若者世代の雇用・所得の底上げにもっと注力する必要がある。

 23年に生まれた外国人も含む赤ちゃんの数は過去最少の75万8631人。本県も6002人に減少した。必要な対策が負担増を伴うなら、早急にそう説明し、国民の協力を得るべきだ。

共同通信・古口健二)