少子化対策法案 財源の説明が不明瞭だ(2024年2月29日『北海道新聞』-「社説」)

児童手当を高校生までに拡充 少子化対策法案を閣議決定 ...


 厚生労働省が昨年の人口動態統計の速報値を発表した。出生数は75.8万人で過去最少を更新した。国の機関が昨年公表した推計と比べ、少子化は10年以上早く進んでいることも判明した。
 状況は深刻なのに政府の「異次元の少子化対策」は心もとない。
 少子化対策関連法案が国会に提出された。児童手当や育児休業給付の拡充などが並ぶが、肝心の財源の説明は不明瞭なままである。
 柱の一つとして創設される「子ども・子育て支援金」は、医療保険料に上乗せして徴収される。
 政府は社会保障の歳出改革で保険料を抑えるとし「実質的な負担は生じない」と繰り返す。負担増の印象を避けたい思惑が透ける。
 岸田文雄首相には負担のあり方を正面から説明してもらいたい。
 政府は新年度から少子化対策の「加速化プラン」を始める。予算規模は28年度までに年3兆6千億円とする方針だ。2兆6千億円を社会保障の歳出削減などで、残る1兆円を支援金で賄うという。
 支援金制度は医療保険の仕組みを活用し労使が折半で負担する。個人の徴収額は加入する医療保険の種類や所得により差が生じる。
 政府は加入者の月平均徴収額が500円弱と説明する。千円超の例もあり得るというが、医療保険別の試算は示していない。これでは踏み込んだ議論はできない。
 政府は歳出改革を強調するがその結果、医療・介護サービスの利用者には自己負担の増加という形でしわ寄せが及ぶ恐れもある。
 その歳出改革も不透明だ。政府は介護保険の2割負担の対象者を拡大する方針だったが、自民党などが反発し先延ばしされた。
 物価高騰などへの配慮はしなければならない。しかし、どのような年代や所得水準の人からどの程度の負担をしてもらうのかについて、議論を尽くさないと持続的な少子化対策にはならない。
 政府は財源の当面の不足分をつなぎ国債で賄う方針だが、歳出改革が進まず国債発行が続けば、将来世代の負担となりかねない。
 対策自体も練り直しが必要だ。
 新年度からの事業は子育て世帯への支援が中心になっている。
 だが昨年の婚姻数は48万組で戦後初めて50万組を割った。雇用や所得に不安がある若者の増加が背景にあり、出生数急減にもつながった。不安の解消が欠かせない。
 政府は30年までが少子化傾向を反転させるラストチャンスという。時間はない。柔軟な発想で議論を深めることが重要である。