少子化対策「支援金」 負担増を真正面から語れ(2024年3月6日『福井新聞』-「論説」)

 公的医療保険と併せて徴収する「子ども・子育て支援金」の創設を柱として、国会に提出された少子化対策関連法案。支援金は2026年4月に創設した上で、28年度には1人当たり月平均500円弱を徴収し、年最大3兆6千億円となる財源のうち1兆円を賄うとしている。

 岸田文雄首相は、賃上げと社会保障の歳出改革で社会保険料の伸びを抑え、その範囲内で支援金を徴収するから「実質的な追加負担は生じさせない」との答弁を繰り返している。国の財政と各家庭の財布の中身を一緒にするような議論だし医療・介護従事者の賃上げに伴う保険料上昇分は負担増に入れないという。これで「負担増なし」と言われても国民は納得しない。

 実際の負担額は加入する医療保険や経済的能力などで変わり、政府は月千円超のケースもあり得ると認めている。ならば、ケースごとの具体的負担額を示し説明を尽くすべきだ。そもそも支援金を医療保険を含む社会保険料として徴収すること自体に違和感が残る。病気やけが、老いなど誰もがいずれ直面するリスクへの見返りがあり、負担への合意が得られやすいのが社会保険料の特徴だ。

 子育て支援金はどうか。少子化が止まれば年金、医療など社会保険の支え手が増え、誰もが恩恵を受けることを根拠に、政府は全世代で子育てを支える社会保険と位置付けたようだ。しかし、子育てを終えた世帯や子どものいない世帯には保険料負担に対する直接の見返りはない。主に現役世代が負担するという難点もある。少子化対策目的税として徴収する方が分かりやすいとの声が上がるのも当然だろう。

 23年に生まれた外国人を含む赤ちゃんの数は過去最少の75万8631人になった。福井県の出生数も過去最少の4823人で初めて5千人を下回った。将来推計人口で、76万人を割るのは35年と想定していたが実際は12年早まった形だ。支持率低迷にあえぐ岸田政権は防衛増税などの課題も抱え、負担増や増税はタブーであり、支援金で押し切りたいのが本音だろう。だが、危機的状況を訴え、税制を含め負担増を真正面から語る方が国民の理解を得られるのではないか。

 歳出面に関しても、児童手当拡充など子育て世帯への給付が中心であり、少子化の最大要因である未婚・晩婚化に手を打つべきだ。23年の婚姻数は90年ぶりに50万組を割り、これが出生数減につながっていることは明らかであり、若者世代の雇用・所得の底上げや非正規の正社員化、最低賃金の大幅アップなどにも注力すべきだ。でなければ少子化を止めるラストチャンスを逃しかねない。