少子化対策財源 負担増をごまかしている(2024年2月22日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 政府が少子化対策関連法案を国会に提出した。焦点の一つが財源確保のため2026年春に創設される子ども・子育て支援金だ。 個人や企業が支払う公的医療保険の保険料に上乗せする形で徴収する。金額は順次引き上げられ、28年度には総額1兆円ほどを見込む。

 岸田文雄首相は「実質的な負担は生じない」と繰り返してきた。理由はこうだ。少子高齢化で医療や介護の保険料は年々上がっていくが、賃上げと医療や介護分野の歳出削減により社会保険の負担を軽減し、その範囲内で支援金を段階的に引き上げる。そうすれば上乗せ分は相殺される―。

 だがこの説明には無理がある。

 まず歳出削減が難しい。厚生労働省は23~24年度の社会保険料を3300億円軽減できるとしている。ただしこれは医療や介護の賃上げに伴う上昇分3400億円を除いている。実際は100億円増える見込みだ。

 岸田首相が固執する「実質負担ゼロ」につじつまを合わせるため、独自の計算で数字をねじ曲げている。本末転倒である。

 歳出削減は医療や介護のサービスの縮小につながる。政府は保険料とは別に、利用者負担の引き上げを検討している。国民の負担増は避けられない。

 個々の企業が判断する賃上げを「実質負担ゼロ」の根拠とするのも違和感がある。ここ2年、物価高で実質賃金はマイナスだ。

 支援金の徴収額もいまだにはっきりしない。政府は6日に初めて「1人当たり月平均500円弱」との試算を示した。大ざっぱすぎて説明になっていない。

 実際の額は個々が加入する医療保険の種類や所得によって大きく異なる。民間の試算によると、月平均で75歳以上の後期高齢者医療制度は253円、自営業者や学生などの国民健康保険は746円。大企業の健保組合は1472円(労使合計)で、後期高齢者医療とは千円以上の開きがある。

 支援金の9割超は、74歳以下が負担することになる。医療保険の仕組みに少子化対策を載せたためだ。現役世代の負担がいっそう重くなる恐れがある。

 そもそも社会保障の削減頼みで支援金の規模を決めるのは妥当なのか。政府が増税を含む負担増の議論から逃げ続けた結果、制度のゆがみは隠しようもない。

 少子化対策の安定財源をどう確保し、負担を社会でどう分かち合うのか。国会で法案を根本からたたき直してほしい。