企業の海外収益 日本にどう還流させていくか(2024年4月3日『読売新聞』-「社説」)

 日本企業が海外で稼いだ収益が十分に国内投資に回らず、海外拠点にとどまっている。政府は、この流れを変え、国内への投資を促す施策に知恵を絞らねばならない。

 日本はかつて、自動車や家電製品など工業製品の輸出で巨額の貿易黒字を生んできた。だが、生産拠点の海外移転などにより、輸出数量は伸び悩んでいる。

 さらに、国際的なエネルギー価格の上昇や円安の影響で、原油などの輸入代金が膨らんだことに伴い、2023年の貿易収支は約9・3兆円の赤字となった。

 一方、企業が海外投資で受け取った配当金や利子などは増えている。こうした所得の収支と、貿易収支などを合算した経常収支では日本は黒字を維持している。

 日本企業の海外での工場建設や海外企業の買収などの対外直接投資が増加しているためで、日本経済は、貿易より海外投資で稼ぐ構造に変化したと言える。

 ただ、対外直接投資で得た収益の約半分は、再投資のために海外拠点に留保されているという。

 日本の人口が減少する中、企業が海外市場に活路を求めることは重要だ。しかし、それにとらわれるあまり、国内での市場開拓や技術開発、人材育成のための投資を軽視してこなかったか。

 日本企業の対外直接投資残高は20年に00年比で6・4倍に増えたが、国内の設備投資による固定資産の伸び率は15%にとどまる。

 製造業を中心に業績の好調な企業が多いにもかかわらず、国内で景気回復の実感が湧かない一因がここにあるとも言われる。人口が減る中でも成長を続けるには、国内への投資の回帰が不可欠だ。

 財務省は、海外収益を国内投資に振り向けるための方策などを議論する有識者の懇談会を設けた。今夏に成果をまとめる予定だ。

 脱炭素の技術革新や最先端半導体の製造、量子技術の実用化など、多額の資金を必要とする分野は少なくない。経済安全保障の観点からも、国内投資による生産基盤強化の重要性は増している。

 政府は昨年12月、国内投資を促すための200項目超の政策パッケージをまとめ、電気自動車(EV)や半導体などの国内生産に対する税優遇などを盛り込んだ。

 政府が、重点分野の戦略と将来像を明確に示すことで、企業が投資しやすい環境を整えることが大切になる。大きな経済効果が見込める分野を選別し、税優遇や補助金などの支援を集中的に拡充することも選択肢となろう。