在外公館の強化 経済活動に外交力を生かせ(2024年4月1日『読売新聞』-「社説」)

 国際秩序が流動化し、海外で展開している日本企業の活動にも不安要因が増えている。政府が外交力を発揮して、積極的に企業を支援していくことが重要となる。

 上川外相が、大使館や総領事館など在外公館の体制を強化する考えを表明した。経団連での講演で「経済界のニーズを把握し、経済外交の戦略と有機的に連動させていく」と述べた。

 具体的には、アジアや欧州の中核的な在外公館に「経済広域担当官」を新設する。複数の国で事業を展開している日本企業に、第三国での投資の相談に応じたり、様々な情報を提供したりする。

 在外公館には、これまでも経済担当の職員が配置されているが、地域をまたいだ経済活動の相談に応じるのは難しかった。

 例えば、自動車大手のスズキは、インドの生産拠点で製造した車をアフリカなどに輸出している。経済広域担当官は、輸出先の公館と連絡を取り合い、必要な情報を提供する役割を担う。

 企業がほかの地域に進出するにあたり、現地の情勢や法制度に詳しい在外公館の職員を頼ることができれば心強いはずだ。大使館などのネットワークを活用し、第三国の政府や企業との人脈を築ける効果も期待できる。

 現地で雇用が創出されることになれば、相手国の経済にも貢献できる。日本の外交力を高めていくことにもなるだろう。

 また上川氏は、経済力で他国に圧力をかける「経済的威圧」に対抗するため、該当するような事例があれば、企業の相談に応じることも明らかにした。政治的課題が生じるたびに貿易を制限している中国が念頭にあるとみられる。

 中国は、2010年の尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件を受け、レアアース(希土類)の輸出を規制した。20年には新型コロナの発生源の調査を巡り、豪州産ワインなどに輸入制限を課した。

 経済的威圧をやめさせるため、現場の実情や影響などの情報を収集する意義は大きい。中国の非が明らかなら、国際的な手続きに 則のっと り、是正を求めていくべきだ。

 在外公館には、外務省出身者に加え、経済産業省農林水産省などの出向者が所属しているが、縦割りの弊害も指摘されている。

 近年は、経済安全保障の観点から、政府と企業が協力し、サプライチェーンの強化や重要鉱物の確保に取り組む必要性が高まっている。各省庁が情報を共有し、横断的に対策を講じてもらいたい。