歴史的円安 家計や中小の負担大きい(2024年3月31日『山陽新聞』-「社説」)

 東京外国為替市場の円相場が先週、1ドル=151円97銭と1990年7月以来約34年ぶりの円安水準となり、その後も151円台で推移している=グラフ。円安は輸入物価を押し上げ、多くの家計や中小企業にとっては負担が増す。過度な円安には警戒が必要だ。

 日銀がマイナス金利解除を決めた19日以降、円安が加速した。日本の金利が上がれば普通なら円高になるはずだが、植田和男総裁が緩和的な金融環境を続ける方針を強調したことで逆方向に進んだ。日本の政策金利はマイナスから脱したとはいえ、0~0・1%と低い水準にある。米国の政策金利は5・25~5・5%と差が大きい。この状態が当分続くとの観測が強まり、運用に有利なドルを買い、円を売る動きにつながった。

 円安は輸出企業にはプラスになるが、製造拠点の海外進出が進んだ現在はその利点が薄れている。一方で最近は、円安で輸入物価が上昇するデメリットが目立つ。2月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く)は前年同月比2・8%増と、ウクライナ危機で穀物や資源価格が高騰した2022年春以降、2%以上の伸びが続いている。家計の消費支出に占める食費の割合「エンゲル係数」は23年に27・8%に達し、40年ぶりの高水準となった。4月は食品の値上げが相次ぐ見通しで、家計はさらに圧迫されそうだ。

 企業経営の上でも、円安は原材料やエネルギーコストの上昇につながる。下請けなど立場の弱い中小企業は、上昇分を取引価格に転嫁するのが難しく「物価高倒産」が増える恐れも指摘されている。

 円安の進行を受け、鈴木俊一財務相は「行き過ぎた動きには、あらゆる選択肢を排除せずに断固たる措置を取る」と述べた。投機的な取引による為替変動に対しては、円買い介入を含めて機動的に対応するべきだろう。

 近年の円安傾向は日本経済の弱さを反映している面がある。為替を安定させるには、長期的に成長力を高めていく努力も欠かせない。

 23年の貿易収支は、円安で自動車などの輸出額が増えたにもかかわらず、原油などの輸入額が大きく6兆6千億円の赤字となった。サービス収支も、訪日客の増加で旅行分野の黒字が伸びた半面、デジタル分野で海外企業への支払いが膨らみ、3兆2千億円の赤字となった。化石燃料への依存度を減らすとともに、国内産業の競争力を強化し、モノやサービスで稼げる構造にしていくことが重要だ。