シェルター整備 国民保護の体制作りを急げ(2024年4月3日『読売新聞』-「社説」)

 中国や北朝鮮が軍事活動を拡大させる中、不測の事態に備えて避難施設を整備することは行政の責務だ。着実に国民保護の体制を強化したい。

 政府が、有事の際に住民が避難できるシェルターの整備を始める。市町村が公的施設の地下に 堅牢けんろう な施設を設ける場合、財政支援する方針だ。

 2004年施行の国民保護法に基づき、自治体は武力攻撃に備えた「緊急一時避難施設」の指定を進めており、現在は全国に6万か所近くある。ただ、この施設は一時的な避難場所にすぎない。

 新設のシェルターは、住民が2週間程度とどまることを想定し、食料を備蓄するほか、発電機や通信設備を備えた施設とする。

 政府はまず、沖縄県先島諸島の5市町村を対象にシェルターを整備する方針だ。

 中国は、尖閣諸島を含む東シナ海上空に防空識別圏を一方的に設定し、その境界線付近に軍艦を展開させている。台湾への軍事的な圧力も強めている。

 台湾有事が現実となれば、先島諸島への影響は避けられない。政府がこの地域にシェルターを優先的に整備することは妥当だ。

 沖縄県玉城デニー知事は「対話による平和構築こそが取るべき外交手段だ。シェルター建設ありきでは十分ではない」と述べ、整備に慎重な考えを示している。

 日本では長年、有事を想定すること自体、タブー視されてきた。知事の発言もこうした考えに基づくものとみられる。

 だが、危機への備えを怠れば住民の命を守れないことは、ウクライナの例を見ても明らかだ。玉城氏の発言からは、住民保護の責任意識が感じられない。

 北朝鮮の核・ミサイル開発も脅威だ。2日に今年3回目となる弾道ミサイルの発射を強行した。

 財政の制約もあり、シェルターを全国一律で整備するのは難しい。政府は先島諸島に限らず、計画的に進める必要がある。

 また、有事や災害時に備え、政府は24年度から北海道や香川、福岡など計7道県の5空港・11港湾を改修する方針だ。自衛隊海上保安庁の航空機や船舶の利用を念頭に、滑走路の延長や岸壁の整備などを実施するという。

 能登半島地震の例からも、災害時の自衛隊による物資の輸送がいかに重要かは、論をまたない。

 政府は当初、沖縄県が管理する空港や港湾も改修する方針だったが、県が慎重だったため見送った。知事の見識を疑いたくなる。