国会後半へ 重要政策の論議深めたい(2024年4月1日『熊本日日新聞』-「社説」)

 2024年度政府予算が成立し、通常国会は後半戦に入る。自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件による政治とカネの問題で、政治はいまだ国民の信頼を回復できたとは言えない。後半国会では政治資金規正法改正が最大の焦点となりそうだが、子ども・子育て支援など他の重要政策の論議も深めてもらいたい。

 新年度予算の一般会計の歳出総額は112兆5717億円で、23年度当初の114兆円に次ぐ過去2番目の規模となった。社会保障費に37兆7193億円、政府の防衛力強化方針を踏まえた防衛費に7兆9496億円を計上し、いずれも過去最大を更新した。能登半島地震からの復旧・復興を進めるため、災害対応などに充てる一般予備費を1兆円に積み増した。

幕引き許されない

 予算額にも表れているように、少子高齢化に伴う社会保障の見通しや安全保障のあり方は、国民の将来を左右する重要なテーマだ。前半の国会でも十分時間をかけて議論すべきだったのに、深く掘り下げられたとは言い難い。自民党安倍派や二階派を舞台とした裏金事件に関する質疑が中心となったからだ。

 どんな経緯で裏金づくりが始まり、何に使われ、なぜ仕組みが続いてきたのか。岸田文雄首相(自民党総裁)や派閥幹部らは、衆参の予算委員会の質疑や政治倫理審査会で答弁したが、国民の知りたいことは依然として分かっていない。早期に実態が解明されていれば、他の政策論議に時間を割くこともできたはずだ。

 岸田首相は近く党として関係議員を処分する方針だが、それをもって問題を幕引きとすることは許されない。

 裏金問題を受け、与野党は4月上旬にも衆院に特別委員会を設置し、政治資金の透明性確保や不正の厳罰化について議論を始める予定だ。与野党とも今国会での政治資金規正法改正を目指しているが、各党の主張には隔たりがある。具体的で中身のある政治改革が形にならなければ、国民の政治不信は極まるだろう。

実質負担ゼロとは

 後半国会では、首相肝いりの「異次元の少子化対策」の裏付けとなる少子化対策関連法案の審議も本格化する。

 政府は児童手当などを拡充するため、税源の柱の一つとして「支援金」の創設を法案に盛り込んでいる。にもかかわらず新年度予算案の審議中にも、国民負担増につながりかねない支援金の試算額を詳細に示さず、予算成立後に初めて公表した。

 支援金は医療保険料に上乗せして徴収されるが、首相はこれまで「歳出改革と賃上げによって、国民に実質的な負担を生じさせない」と説明してきた。これに対し与党議員からも「詭弁[きべん]だ」との声が上がっている。与野党で激しい論戦になるのは間違いない。

 民間人を含め経済安全保障上の重要情報を扱う人の身辺を国が事前に調べる「セキュリティー・クリアランス(適性評価)制度」を導入する法案も焦点になる。個人について詳細に調査されるためプライバシーの侵害になりかねず、保全対象となる情報の範囲も曖昧だとの指摘がある。人権侵害を招かないように与野党でしっかり議論してほしい。

次期戦闘機輸出も

 政府は3月、英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機の第三国輸出を解禁する方針を閣議決定した。戦後日本の安保政策の大きな転換になるにもかかわらず、与党と政府内のみで議論と手続きを進めた結果だった。こうした重大な政策決定に国会が関与できないままでいいのか。後半国会では次期戦闘機関連の条約承認案が審議される。この機に徹底的な論議を求めたい。