予算案通過/国会は裏金の徹底解明を(2024年3月5日『神戸新聞』-「社説」)

 総額112兆5千億円を超える2024年度政府予算案が与党の賛成多数で衆院を通過し、憲法の規定により年度内の成立が確実になった。予算案の採決を巡る与野党の対立が激化し、国会を土曜日に開く異例の展開となった。

 政府、与党は1日、自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件の衆院政治倫理審査会(政倫審)が終わらぬうちに予算委員会を開き、小野寺五典委員長の職権で予算案の採決を強行しようとした。

 これに反発した立憲民主党は小野寺委員長の解任決議案を提出し、本会議で立民議員が3時間近い趣旨弁明演説を繰り広げた。その影響で政倫審の審査に遅れが生じ、さらに立民は鈴木俊一財務相不信任決議案を出して徹底抗戦した。いずれも与党などの反対多数で否決されたが、国会の混乱は深夜に及んだ。

 与野党の協議で予算案の強行採決は避けられたものの、本はといえば信頼回復のための政倫審を、駆け引きの道具とするかのような自民の対応が招いた事態である。国民の政治不信は深まる一方であり、猛省すべきだ。

 岸田文雄首相は、能登半島地震の復旧・復興費が盛り込まれているなどとして、予算案の早期成立を求めた。しかし予算委は「政治とカネ」の問題に時間を取られ、予算本体の是非を巡る実質的な審議は停滞を余儀なくされた。その責任は政府、与党にあり、参院での審議に向けて姿勢を改めねばならない。

 首相肝いりの防衛費の大幅増や「異次元の少子化対策」の財源を巡る議論も深まったとは言い難い。

 児童手当や育児休業給付の拡充など少子化対策の財源の一つとして創設される「子ども・子育て支援金」は、医療保険料に上乗せして徴収する。だが首相は社会保障の歳出改革や賃上げ効果をあてこみ「実質的な負担は生じない」と繰り返した。負担増の印象を避けたい思惑が透けて見え、広く国民の理解や納得を得ようという姿勢がみられない。

 予算案は歳入の多くを国債(借金)に依存する。金利上昇圧力も加わり、財政の硬直化が懸念される。歳出改革が進まず国債発行が続けば、将来世代へのつけは膨らむばかりだ。首相は安定財源の確保に向け国民負担の在り方などを正面から説明する責任がある。与野党参院で議論を深めてもらいたい。

 予算の年度内成立が確定したとはいえ、裏金事件に区切りがついたわけではない。国民の疑念払拭には程遠く、自民の自浄能力は期待できない。国会は、参考人招致偽証罪が問われる証人喚問を含め、真相の徹底解明に尽くす必要がある。