予算成立に関する社説・コラム(2024年3月29日)

予算成立と裏金問題 民主主義の危機自覚せよ(2024年3月29日『北海道新聞』-「社説」)

 

 政府の新年度予算がきのう、成立した。通常国会は、自民党派閥による裏金事件というかつてない大規模な不正の解明をなお課題として残したまま、後半に入る。
 これまで2カ月以上を審議に費やしながら、裏金づくりの開始時期や目的、使途など肝心な点は何一つ判明していない。
 岸田文雄首相は党として来週にも裏金に関与した議員を処分する意向という。実態が分からないまま下した処分の内容が妥当と言えるだろうか。
 首相から伝わってくるのは幕引きしようとの焦りばかりだ。政権の自浄能力どころか、統治能力自体を疑わざるを得ない。
 国会は、政治とカネの問題に多くの時間が割かれ、国の針路や国民生活に深く関わる重要な予算や政策の審議が停滞している。
 日本の民主主義は危機的な状況にあると言える。
 与野党、とりわけ自民党はその深刻さを自覚し、粘り強く真相究明に取り組まねばならない。
 
■解明へ喚問が必要だ
 首相は記者会見で自らが聴取した安倍派幹部の処分について「役職や説明責任、信頼回復に向けた努力状況などを総合的に判断し、厳しく対応したい」と述べた。
 自民党内では「選挙での非公認」以上の処分とする方向で調整しているという。
 過去にコロナ下で銀座のクラブへ通った議員の処分は、非公認よりも重い離党勧告だった。決着を急ぐあまり説明のつかない処分に終われば、国民の不信感はかえって強まるだろう。
 首相自身への処分も問われる。首相は岸田派では議員への資金還流がなかったとして否定的だが、派閥の元会計責任者が立件されている。責任逃れは許されまい。
 そもそも処分対象となる安倍派、二階派の計約80人についても、不正の実態が定かではない。
 その多くが秘書らに任せていたと言うが、これだけ広範で組織的な不正を認識していた政治家が誰一人いなかったとは信じがたい。
 処分の前に、まず一人一人が国会の場で説明するのが筋だ。
 これまで政治倫理審査会に出席した安倍派幹部らも「知らぬ存ぜぬ」を繰り返すだけだった。虚偽答弁が偽証罪に問われる証人喚問で追及するしかあるまい。
 首相が実態解明の必要性を掲げる以上、自民党が喚問を拒否する理由はないはずだ。
 安倍派が裏金処理を始めた経緯を探るには、かつて派閥の会長を務めた森喜朗元首相に国会で話を聴くことも欠かせない。
 党内の処分で幕引きを図るのは許されないと肝に銘じるべきだ。
 
■実効性のある改革を
 衆院では来週にも、政治改革を議論する特別委員会が設置される見通しだ。政治資金の透明化を進める法改正などがテーマとなる。
 問題は、不正を起こした当の自民党が、いまだに改革案を示していないことだ。党内で改革論議が熱を帯びている様子もうかがえない。政権党として、この危機意識の乏しさはどうしたことか。
 既に多くの野党が、企業・団体献金の禁止や、会計責任者だけでなく議員にも責任を負わせる連座制の導入、使途公開義務がない政策活動費の廃止などで一致する。
 30年前の政治改革で積み残された課題も少なくない。実効性ある改革に向け早急に議論すべきだ。
 1988年に発覚したリクルート事件から政治改革関連法の成立までは6年かかった。
 今、そんな悠長なことはしていられない。今国会で実態を解明した上で対策を講じなければ、信頼回復はおぼつかない。
 
■法案の徹底審議必要
 過去2番目の規模となった新年度予算案はコロナ禍で膨らんだ歳出構造の引き締めが問われた。
 国債費は歳出の4分の1を占めており、日銀が「異次元の金融緩和」を終了したことで、金利の上昇圧力はさらに強まっている。
 能登半島地震の復興や1兆円に上る予備費を計上したにもかかわらず、議論が深まらなかったのは財政民主主義の観点から問題だ。
 今国会は、少子化対策関連法案のほか、非常時に政府が自治体への「指示権」を持てるようにする地方自治法改正案や、経済安全保障分野に機密保全の対象を拡大する新法案などが山積する。
 地方自治や国民の知る権利を脅かしかねない危うさがある。
 後半国会に向け、徹底審議で問題点をあぶり出さねばならない。
 政府は、殺傷能力が高い次期戦闘機の第三国への輸出解禁を閣議決定した。平和国家の理念を損ねる重大な方針転換である。
 なのに衆参の予算委での議論を尽くさぬまま、政府・与党だけで決めた。国会軽視が甚だしい。
 国民をないがしろにした政府の暴走を止める必要がある。

 

24年度予算成立 国民生活を委ねられるか(2024年3月29日『東奥日報』ー「時論』/『茨城新聞山陰中央新報佐賀新聞-「論説」)

 

 2024年度予算が参院本会議で自民、公明両党などの賛成多数で可決、成立した。

 岸田文雄首相は予算に基づき社会保障や安全保障政策などを主導していくが、政治不信を解消できない岸田政権に国民生活を委ねられるのか。

 4月には衆院補欠選挙があり、6月の今国会の会期末までには首相が衆院解散・総選挙に踏み切る可能性が取りざたされている。後半国会は「政治とカネ」問題に加え、重要政策の審議を通じ、信任に値する政権か見極める期間としたい。

 24年度予算は、一般会計の歳出総額が112兆5717億円で、23年度当初に次ぐ過去2番目の規模だ。

 予算はいずれも過去最大の社会保障費37兆7193億円、防衛費7兆9496億円などを計上。能登半島地震からの復旧・復興を進めるため、災害対応の一般予備費を1兆円に積み増した。

 予算額にも表れているように、少子高齢化に伴う社会保障や安保環境の悪化を受けた防衛政策は、日本の将来を左右し、国会で議論を尽くすべきテーマだ。

 衆参両院の予算委員会でも取り上げられたが、主に安倍派を舞台にした自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件の質疑が中心で、深掘りされなかったと言える。

 要因ははっきりしている。違法な裏金還流が誰の指示で始まり、いったん中止を決めた還流を復活させたのは誰かといった国民の疑問に、安倍派幹部が真摯しんしに答えなかったことにある。

 首相の責任はもちろん大きい。早期の実態解明に向けて指導力を発揮していれば、政策論議に充てる時間が生まれたはずだ。

 参院での予算採決に先立ち、首相自身が安倍派幹部の追加聴取を行った。その結果次第ではあるが、首相も認めた「大きな疑念」が晴れないようでは、政策推進の土台になる国民の信頼は取り戻せまい。

 裏金に関しては使途に判然としないところがあり、法定外の選挙運動費に回されたとの疑いが消えていない。事実なら、選挙による代議制民主主義を揺るがし、政権の正統性さえ問われる。首相は来週にも安倍派幹部らの処分に踏み切る方針だが、国民が納得しない以上、それで裏金事件に幕引きすることは許されない。

 予算成立を受けて、国会の論戦は重要法案や施策を対象に展開する。経済安保情報法案や少子化対策関連法案などが挙げられる。前者は機密指定による国民の知る権利の制限が懸念され、後者は「子ども・子育て支援金」創設で国民の負担増につながるとの指摘がある。

 加えて英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機の第三国輸出解禁の当否もある。法案化されないため、自民、公明両党内の調整を経て閣議で決定した。殺傷兵器の輸出は、憲法の平和主義から逸脱するとの危惧があり、国会での徹底審議が求められる。

 国民の「命と暮らし」に関わるこれらの法案や施策に賛同を得たいなら、まずもって首相らが必要性について十分に説明しなくてはならない。

 「信なくば立たず」。首相が掲げる政治信条の真贋しんがんは、裏金事件への今後の取り組みや法案などの国会審議で明確になろう。それを記憶にとどめ、来たる国政選挙で投票先の判断基準としたい。(共同通信鈴木博之

 

新年度予算成立 審議の充実へ工夫が必要だ(2024年3月29日『河北新報』-「社説」)


 財政悪化のリスクを十分に考慮し、審議を尽くしたと言えるのか。日銀が異例の金融緩和策を解除した一方で、政府と与野党には緩んだ財政規律を早期に引き締めようとする機運は乏しい。

 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件一色に染まった今国会で、予算案は与野党の駆け引きの具にもなった。こうした審議の在り方にも一定の見直しが必要だろう。

 一般会計の歳出(支出)総額が112兆円台に上る2024年度予算がきのう、成立した。能登半島地震を受け、一般予備費を1兆円に倍増したほか、社会保障費、防衛費は過去最大を更新し、過去2番目の巨額予算となった。

 歳入(収入)の柱となる税収は過去最高を見込んでいるが、歳入の約3割は35兆円の国債発行に依存する。金利が復活する中、このまま借金頼みの財政運営を続けていてはなるまい。

 24年度予算は金利の上昇を見込み、国債の返済や利払い費に充てる「国債費」を前年度比1兆7587億円増の27兆円としたが、中長期的に見れば、まだ序の口だ。

 財務省によると、名目3%の経済成長と2%の物価上昇が続けば、27年度の長期金利は24年度の1・9%から2・4%に上がり、国債費は34兆円を超える。

 税収の拡大は期待できても少子高齢化に伴う社会保障費の膨張は今後も避けられず、他の政策的経費に回す余地が狭まるのは明らかだ。

 岸田文雄政権が防衛費倍増の財源として想定する増税は先送りが続き、少子化対策を賄う支援金制度の導入も「実質負担ゼロ」との説明に固執するあまり、公的医療保険料に上乗せ徴収する仕組みの具体的な議論が深まらない。

 「負担増」の議論を避けている間にも、財政リスクが顕在化する時期は迫りつつあることを忘れてはならない。

 一方、「裏金国会」とも呼ばれる今国会では、予算案の衆院通過が与野党攻防の焦点になった。象徴的だったのが年度内成立を確実にしたい与党と追及を強めたい野党が対立し、異例の土曜日採決となった2日の衆院本会議だ。

 立憲民主党は職権で委員会採決を行った小野寺五典予算委員長の解任決議案などを提出して前日から徹底抗戦。3時間に迫る趣旨弁明演説などで議事進行を遅らせた。

 実態解明には程遠い政治倫理審査会を「踏み台」に採決を急いだ政権と時代錯誤的な戦術にしがみついた野党。国民の目には、双方とも予算案を軽んじているように映ったのではないか。

 与野党は今月初旬、衆院に「政治とカネ」問題を協議する特別委員会を設置することで合意していた。早い段階で事件や政治改革の議論を予算委員会と分けて進めることもできたはずだ。予算案審議の充実に向け、さまざまな手法を検討すべきだろう。