24年度予算成立に関する社説・コラム(2024年3月30日)

24年度予算成立 国債依存、改める姿勢を(2024年3月30日『秋田魁新報』-「社説」)

 

 一般会計の歳出総額が112兆5717億円となる2024年度予算が28日の参院本会議で可決、成立した。過去最大だった23年度当初の114兆円に次ぐ規模。35兆4490億円分の国債を新たに発行する。

 日銀は政策金利を17年ぶりに引き上げた。今後さらに利上げが続けば国債の利払い費が膨らむ可能性がある。国債発行残高は1千兆円を超え、主要国中で最悪水準。国民生活や経済活動を支えるための政策向け経費が圧迫される懸念も生じる。現在のような国債依存を改める姿勢を検討すべき時ではないか。

 4月28日投開票の衆院補欠選挙が目の前に迫る。同時にその先の6月の国会会期末に合わせた衆院解散が取り沙汰される。こうした日程を踏まえ、政権浮揚の布石を狙った予算でもあったのかもしれない。

 大手を中心に高水準の賃上げが続く一方、人件費増や円安による物価高への懸念も増す。6月の所得税・住民税減税への期待は、将来の負担増への不安に相殺されかねない恐れもある。

 予算成立後の記者会見で岸田文雄首相は「わが国のデフレ脱却への道はいまだ道半ばだ」と述べている。ただ大規模な金融緩和が終わりを告げ、多額の国債発行にこれ以上頼り続けるわけにはいかない。それにもかかわらず、財政規律を重んじる姿勢からは程遠いのは残念だ。

 これまでの前半国会は自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件に終始してきた。衆参の政治倫理審査会で真実を語ろうとしない派閥幹部らの姿勢に失望を隠せない国民が大半ではないか。

 自ら安倍派幹部の追加聴取を行った岸田首相だが、国会や会見でその結果を十分に明らかにしていない。多くの疑念をそのままにして処分に踏み切り、幕引きを図ろうとする姿勢では国民の政治不信の払拭は難しい。

 岸田首相は会見で、政治資金規正法改正の今国会中の実現へ「本格的に取り組む」と決意を示している。その言葉を実現するため、まだ政倫審で弁明に応じていない議員やキーマンの出席を促すことを求めたい。

 これまで浮かび上がった説明の食い違いなどについては、証人喚問などで改めて追及しなくてはならない。少しでも真実に近づき、それを国民に示すことが大切になろう。関係議員の処分はその上で行うのが筋だ。

 後半国会まで「政治とカネ」問題だけに多くの力を傾注し続けることはできない。能登半島地震の復旧・復興など災害対応をはじめ、少子高齢化、防衛問題、そして国民生活や地域社会を守るための重要法案や施策について腰を据えた論戦を繰り広げることが求められる。

 岸田首相は「政治の信頼回復など先送りできない課題に集中したい」とも述べた。国会審議で誠意ある説明を行い、真摯(しんし)な姿勢を示すことが国民の信頼を得る近道となるに違いない。

 

24年度予算成立 生活の安定実現できるか(2024年3月30日『新潟日報』-「社説」)

 生活の安定を実現できる予算かどうか。経済情勢に左右される側面が大きく、先行きは不透明だ。

 国の2024年度予算が与党などの賛成多数で可決、成立した。一般会計の歳出は112兆5717億円で、23年度当初に次ぐ過去2番目の規模となった。

 政府の防衛力強化方針を踏まえた防衛費や、高齢化に伴う社会保障費がいずれも過去最大を更新した。能登半島地震を受け、災害対応などに充てる一般予備費を5千億円から1兆円に倍増した。

 予算成立を受け、岸田文雄首相は記者会見で、賃上げの実績とデフレ完全脱却の意欲を掲げた。6月に行う1人当たり4万円の定額減税もアピールした。

 6月の国会会期末に合わせた衆院解散も視野に入れ、政権浮揚を図りたい思惑があるのだろう。

 春闘は連合の集計で1991年以来33年ぶりに5%台の賃金アップが見込まれるなど、力強さを感じさせている。

 一方で物価変動を加味した実質賃金は1月で22カ月連続のマイナスとなり、物価高に見合う賃金水準には至っていない。

 中小企業の賃上げについて、首相は「実現に向けた対策を全力で講じる」と述べたが、現状のままでは大企業との格差がさらに広がる懸念が強い。

 物価高対策を巡っては、政府が家庭や企業の電気・ガス代を支援する補助金を、5月使用分を最後に打ち切る調整を始めた。ガソリンや灯油など燃油価格を抑える補助金は当面継続する。

 総額約10兆円の予算を確保し、昨年9月末までに約6兆円をつぎ込む異例の価格介入策だった。国民の痛みを和らげる効果はあったとはいえ、政治主導のばらまきの色彩が極めて強かった。

 対策が出口に向かうことは必然だが、夏の冷房シーズンに電気代が急騰した場合の対策を、政府は検討しておくべきだろう。

 24年度予算が国の借金である国債を新たに35兆円以上発行することにも課題がある。国債の元利払いに充てる国債費は金利の上昇基調もあり、27兆円となった。

 物価高対策や新型コロナウイルス対策で国債発行を繰り返し、財政は一段と悪化している。

 財務省によると、普通国債残高は24年度末に1105兆円に達し、対国内総生産(GDP)比で180%に上る見通しだという。

 問題なのは、国債発行はいずれ税負担という形で国民に跳ね返るものなのに、政府がその道筋を示していないことだ。

 野放図な財政運営は将来世代の深刻な負担になる。重要な議論を置き去りにしてはならない。

 そのためにも国会は、焦点となっている裏金問題の解明を急ぐべきだ。多岐にわたる課題がありながら、議論を深めることができなくては、国会の責任が問われる。

 

予算の成立 審議の不足は明らかだ(2024年3月30日『信濃毎日新聞』-「社説」)


 政府の2024年度予算が成立し、前半国会が終了した。

 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件の全容解明が焦点となる中、過去2番目に大きい112兆円の予算案の審議を尽くしたとは言いがたい。

 過去最大の7・9兆円を計上した防衛費は、財源が曖昧なまま、5年間で総額43兆円を投じる計画が既成事実化している。高齢化で社会保障費も過去最大だ。

 国債の返済と利払いに使う国債費は27兆円となり、歳出の4分の1を占めている。日銀の大規模金融緩和策の転換で金利の上昇圧力は高まり、国債費は27年度には34兆円に達すると推計される。

 財政再建の道筋が全く見えない中、借金頼りの財政運営がいずれ限界に達することは明らかだ。

 それなのに、衆参の予算委員会の審議は「政治とカネ」が中心となり、予算案に必要な審議が不足していた。与党は年度内成立を確実にするため、異例の日程を組んで衆院通過を強引に図った。結局、予算案審議も、裏金問題の解明も中途半端なままだ。

 与野党は3月上旬、政治改革の在り方を議論する特別委員会を4月以降に設置する方針で合意している。特別委の設置を早め、予算委と分けて議論していくことを検討するべきだった。

 岸田文雄首相は28日の記者会見で、来週にも裏金事件に関係した議員の処分に踏み切る方針を表明し、政治資金規正法を今国会中に改正することに「本格的に取り組む」と意欲を示した。予算成立で裏金事件にも一定の区切りが付いたと強調したいのなら、認識不足が甚だしい。

 裏金づくりがいつ、誰の指示で始まり、何に使ったのか―。いずれも不明確なまま、何を根拠に処分するのか。規正法改正も全容解明後に取り組むのが筋である。

 岸田首相は安倍派幹部の追加聴取で何が明らかになったのかは説明していない。裏金問題解明の鍵を握るとされる森喜朗元首相への聴取は水面下で行い、詳細は不明だ。このままでは国民が納得できる政治改革は実現できない。

 後半国会は、非常時に国の自治体への指示権を拡充する地方自治体法の改定案や、少子化対策の関連法案など重要法案が山積する。日本が英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機の第三国への輸出解禁を閣議決定したことも審議を尽くす必要がある。

 政府と与野党は、後半国会の審議を再びおざなりに済ますことは許されないと認識するべきだ。