2024年問題に関する社説・コラム(2024年4月1日)

(2024年4月1日『秋田魁新報』-「北斗星」)

 これまで自ら経験した引っ越しを数えてみると19回だった。ほぼ3年に1回のペース。親の転勤、自身の進学、就職、転勤…。意外に多かった

▼先日まで本紙に連載された「切手サロン」で、著者の加賀谷長之さん(秋田市)は「2人の引っ越し魔」の切手を紹介している。浮世絵師の葛飾北斎は作品を発表してからの70年間で93回。作曲家のベートーベンは活動の場をウィーンに移してからの35年間で79回。上には上がいるものだ

▼年度替わりは引っ越しのシーズン。昨日まで作業に追われ、今日から新たな赴任地で仕事という方もいるだろう。今春引っ越す知人は業者に3月中を希望したがかなわず、4月上旬にずれ込むという

▼近年はトラック運転手の不足のため、希望時期に転居できない「引っ越し難民」が出ている。さらに今日からは運転手の残業規制が強化された。これに伴い国全体の輸送能力が低下する「物流の2024年問題」が懸念されている

▼今の時期に集中している異動時期をずらすことで、引っ越しのピークを分散させることは対策の一つになるだろう。しかし年度途中の異動が多くなれば、親と一緒に転居し学年途中で転校する子どもが増えることにもつながる。経験上、そうした子どもの勉学の負担は決して小さくない

▼24年問題には社会全体で解決に取り組むことが必要になる。引っ越しのシーズンは不要不急の荷物を送らない、取り寄せない。こうした国民の意識改革も求められてくる。

 

物流網の維持 荷主、消費者の協力必要だ(2024年4月1日『山陽新聞』-「社説」)

 

 トラック運転手の時間外労働(残業)の上限を年960時間とする規制がきょうから始まる。長時間労働を解消する「働き方改革」が目的だが、人手不足による物流の停滞も懸念される。近年指摘されてきた「2024年問題」だ。物流網は人々の暮らしや企業の経済活動を支える貴重な社会インフラであり、持続可能な体制を構築しなければならない。

 残業規制は、19年施行の改正労働基準法に基づく。国が規制を設けた背景には、過労の末に命を落とす人たちを出してしまったという反省がある。トラック運転手など一部の業種は、直ちに規制を適用するのが難しいと判断され、5年の猶予期間が設けられていた。

 トラック運転手の労働時間は全職業平均より2割ほど長いとされる。規制の適用を健康的で働きやすい職場に変えていくきっかけにしたい。

 一方、働ける時間が短くなれば、運転手が運べる荷物の量は減る。政府が関係閣僚会議に示した資料によると、何も対策を講じなければ、24年度に運べる量は19年度比で14%、30年度には34%減るという。農産物が届かずスーパーで欠品が出たり、宅配便の配達が大幅に遅れたりといった事態も起きかねない。対策は急務である。

 有効な方策の一つとして「中継輸送」が挙げられよう。長距離の輸送ルートに中継地点を設け、複数の運転手が交代してつなぐ方式だ。国土交通省山陽道と瀬戸中央道の接続点・早島インター近くの岡山市南区に中継拠点を整備する方針である。別方面から出発した車両が中継拠点で合流し、荷物を交換したりドライバーが交代したりすることで、車中泊を伴う長距離輸送の解消を図る。既に同業者と連携し、中継輸送に取り組む岡山県内企業もある。好事例は他社も参考になるはずだ。

 長時間労働の解消には荷主の協力も欠かせない。配送拠点などで待機する「荷待ち」、荷物の積み降ろしをする「荷役」が長時間労働の大きな要因になっており、荷物の引き渡しの効率化が求められる。荷役は契約にないケースも多いとされ、適正な対価を支払うように見直すべきだ。

 残業の上限規制に伴い、運転手の収入が減る可能性もある。トラック運転手の年間賃金は全産業平均より5~10%低いとされる。政府は待遇改善に向け、24年度に10%程度の賃上げを目指す方針を掲げる。実現には、運賃の引き上げが不可欠である。

 インターネット通販が普及する中、宅配便を受け取る消費者の行動も鍵を握る。配達日時の指定や玄関前に荷物を置く「置き配」で再配達を減らしたい。まとめ買いすれば配達回数の削減にもつながるだろう。

 物流網の維持には運送事業者だけでなく、荷主、消費者の協力が欠かせない。社会全体で支えたい。

 

「2024年問題」解決の鍵は?(2024年4月1日『佐賀新聞』-「有明抄」)

 きょうから4月。新年度がスタートする。法律を含め、新制度も始まる。「働き方改革関連法」はその一つ。2019年4月の施行から5年。業務内容に配慮し、猶予期間が設けられていた医療、自動車運転、建設業などへの適用がきょうから始まり、残業時間に上限が設けられる。人手不足も重なる中、業務をうまく回せるか。「2024年問題」といわれるゆえんである

◆日本人は“働き蜂”といわれるほど勤勉だが、長時間労働を美徳とする考え方は少しずつ改善されてきたと感じる。法律はもちろん、コロナ禍もきっかけになった

◆人との接触制限で在宅勤務やオンライン会議が広がった。タブレットスマートフォンを駆使し、オフィス以外の場所で仕事をする「ノマドワーカー」、働きながら休暇を取る「ワーケーション」という言葉も生まれた

◆「どこで」より「どう働くかが大事」と価値観を変えた人もいるだろう。コロナ禍だけで終わらせるのはもったいない

◆一方、外出自粛で物流量が増えた。医療や介護など対面で接しなければ成り立たない仕事も多い。とはいえ、誰かに負荷がかかりすぎるのは問題。企業努力に加え、再配達防止へのちょっとした心配りなど利用者の立場からも貢献したい。コロナ禍と同じように、支え合いで乗り切りたい「2024年問題」である。(義)