それは真相解明とは程遠いものだった。自民党派閥の政治資金パーティー収入事件を巡って衆参両院で開かれた政治倫理審査会は、安倍派(清和研)による組織的な裏金づくりの実態は分からないままで、むしろ疑惑は深まった。
(時事通信解説委員 山田惠資)
ただ、そんな中、独り気を吐いたのが3月14日の参院政倫審に出席した安倍派の西田昌司氏(当選3回)だった。冒頭、「政治不信を招いた国会議員の一人として、国民におわび申し上げる」と謝罪。その上で、派閥会長だった安倍晋三・元首相の指示で中止したノルマ超過分の還流が復活したことへの安倍派元幹部の説明責任について「全く果たしてない」と断じた上で、こう主張した。
「清和研の一員として、裏金議員という認定でレッテルが貼られている。それを晴らすためには(還付)継続を決めた経緯と、誰がやったのか、察知したのか、という事実関係を説明することが一番だ」
「納得できない」と断じた西田氏
さらに午前中に政倫審に出席した世耕弘成・前参院幹事長について説明責任が果たされたと思うかと問われると言い切った。「とてもそうは思えない。全く納得できない。派閥幹部は、その時知らなくても調べて報告する義務がある」。これには思わずうなずいてしまった。
還流はいつ始まったかに世耕氏は「本当に分からない」。誰が還流再開を提案したのかにも「記憶にない」を繰り返し、「誰がこんなことを決めたのか私自身も知りたい」と語気を強める場面あった。ならば、なぜ調べないのか。これは至極まっとうな疑問である。
実際に安倍派内では、世耕氏に限らず、衆院政倫審に出席した松野博一・前官房長官、西村康稔・前経済産業相、高木毅・前国対委員長ら幹部に対し批判が渦巻いているのが現状だ。そんな派内の不満の声を西田氏が代言した形ともなった。
程なく、政倫審を終えて議員会館の自室に戻って来た西田氏を捕まえ、直接感想を聞こうとした時、西田氏の携帯電話が鳴った。相手は世耕氏だった。安倍派が2022年4月に派閥として還流中止を決めたことについて、西田氏が政倫審で「秘書には連絡があったかもしれないが、私自身には連絡がなかった」と発言したことについて、世耕氏は「自分は直接連絡した」と釈明したようだ。
西田氏は必ずしも記憶は定かでない面があることは認めつつも、「それは本質的なことではありませんよ」。その上で還流再開の経緯が分からないのなら、派閥幹部として調べて明らかにしてもらいたいと反論した。約5分間足らずのやりとりながら、安倍派内における幹部とその他の議員との対立を象徴するようなシーンだった。
後日西田氏は、国会のエレベーター内で安倍派中堅の衆院議員から「最敬礼」を受けたという。この議員も安倍派幹部の政倫審での対応にはひどく憤慨していた1人である。
下村氏も暴露なし
参院政倫審から4日後の3月18日。衆院政倫審に出席した安倍派事務総長経験者の下村博文・元政調会長の答弁も、真相解明の点では不発に終わった。下村氏と言えば、世耕氏ら安倍派「5人衆」の後見人として振る舞う森喜朗・元首相との根深い確執があり、昨年8月に発足した15人の安倍派常任幹事会のメンバーからも外れていた。
ただ、下村氏は、安倍氏が安倍派資金還流の中止を指示した22年4月の協議と、再開が話し合われたとされる同年8月の幹部協議に会長代理として出席。今年1月の記者会見
では、8月の協議で還流分を議員主催のパーティー収入に上乗せして政治資金収支報告書に記載する案を幹部間で議論したと証言。そうした案が「ある人」から提案されたとも語っており、政倫審では新事実の暴露があるのではないかとの期待もささやかれたものだ。
しかし、自身の関与はもちろん、還流開始や再開の経緯などについてことごとく否定しただけだった。もともと早期の幕引きを図りたかった自民執行部は、下村氏の政倫審出席に消極的だった。これに対し、政倫審に出席するよう下村氏の背中を押したある安倍派の閣僚経験者は「もっと踏み込んで語ってほしかったな。政治家として勝負する絶好のチャンスだったのに」と残念がること残念がること…。
伊吹氏の苦言
岸田首相は近く安倍派幹部らの処分に踏み切るはずだ。そこには政権・与党としては一気に裏金事件の幕引きを狙う意図が透けて見える。首相自ら安倍派幹部を事情聴取したのも、自身が率いた岸田派より組織的な裏金作りが判明した安倍派の方が悪質性が高いことを世論に印象付けて、安倍派幹部にはより重い処分を科すことを正当化するためだろう。
本来なら、安倍派幹部らが率先して真相解明に動き、道義的責任を果たすべきであろうに。「法律で許されていても我慢してやらない。法律で義務付けられてなくても進んでやる。これが(政治家の)矜持(きょうじ)だ。そういうお天道様に顔向けできる自民党であってほしい」
元衆院議長の伊吹文明氏がテレビ番組で口にした言葉が重く響く。
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山田惠資(やまだ・けいすけ)時事通信社解説委員 1982年時事通信入社。政治部、ワシントン支局、整理部長、政治部長、仙台支社長、解説委員長を経て、2019年7月から現職。