政倫審の限界/裏金の実態解明に程遠い(2024年3月19日『神戸新聞』-「社説」)

 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受け、安倍派の会長代理を務めた下村博文文部科学相がきのう、衆院政治倫理審査会に出席した。

 疑惑解明のキーパーソンとみられ発言が注目されたが、新たな事実はなく、説明責任を果たしたとは言い難い。政倫審の限界を露呈した。参考人招致偽証罪にも問われる証人喚問を検討すべきだ。

 安倍派ではパーティー券のノルマを超えた販売収入を議員に還流し、政治資金収支報告書に記載せず裏金化していた。2022年4月に会長だった安倍晋三元首相の指示で資金還流の中止を決めたが、安倍氏死去後の8月に開かれた幹部協議後に復活した経緯がある。事務総長経験者の下村氏は協議に出ていた。

 焦点は幹部の違法性の認識や、誰が復活を決めたのかだ。

 今月1日の衆院政倫審で、同協議に出席した西村康稔経済産業相は「結論は出なかった」と述べた。一方、派閥座長を務めた塩谷立文科相は「話し合いで継続になった」と説明し、食い違いが生じていた。

 14日の参院政倫審で弁明した世耕弘成参院幹事長は「誰が決めたのか私も知りたい」と人ごとのように繰り返した。改選対象の参院議員にパーティー券販売収入の全額を還流する独自の運用に関しても「承知していない」と関与を否定した。

 下村氏は還流の仕組みについて「関与したことはなく、相談も受けていない」と述べた。22年8月の幹部協議で資金還流に代わり議員個人のパーティー券を派閥が購入する案が話し合われたとしたが、誰の発案かは「覚えていない」とかわした。疑問は何一つ解消していない。

 20年以上前からとされる裏金づくりが始まった経緯も、明らかにならなかった。政倫審で野党は、かつて派閥を率いた森喜朗元首相を国会に招致するよう訴えてきた。下村氏は森氏の影響について「全く承知していない」と述べたが、経緯を知り得る森氏への聴取は不可欠だ。実際に裏金を管理していた安倍、二階、岸田派の会計責任者にも説明を求める必要がある。

 自民は17日に党大会を開き、裏金事件を受けて党則や規律規約などの改正を決めた。会計責任者が刑事処分された議員への処分の厳格化が柱だが、今回の事件は改正による処分対象とはならない。岸田文雄首相は関係議員に「説明責任を貫徹すべく引き続き促す」と述べたが、その言葉がむなしく聞こえる。