解明進まぬ政倫審 安倍派幹部の証人喚問を(2024年3月21日『毎日新聞』-「社説」)

衆院政治倫理審査会でうつむきながら挙手する下村博文・元文部科学相=国会内で2024年3月18日午後4時6分、北山夏帆撮影 衆院政治倫理審査会でうつむきながら挙手する下村博文・元文部科学相=国会内で2024年3月18日午後4時6分、毎日新聞北山夏帆撮影


証人喚問で追及、解明せよ/自民党の裏金事件(2024年3月21日『東奥日報』-「時論」)


 衆参両院の政治倫理審査会は、自民党安倍派幹部らの弁明と質疑を終えた。しかし、政治資金収支報告書不記載などの会計処理への関与を否定し、違法性の認識もなかったと説明。2022年にいったんは派閥からの還流取りやめを決めながら、再開した経緯も「知らない」と口をそろえ、核心部分の解明には至らなかった。自民党内ですら「疑問が残る」との声が上がっており、世論は到底納得しないだろう。

 巨額の裏金事件が深刻な政治不信をもたらしたことへの自覚や反省は抜け落ち、実態の解明に努力しようという責任感も見当たらない。これが憲政史上最長政権を支えた自民党最大派閥の、保身ばかりが際立つ嘆かわしい「正体」だった。

 のらりくらりとかわす姿を許しては、いつまでたっても、真相には近づかない。野党が要求するように、偽証罪も適用される証人喚問に踏み込む時だ。安倍派幹部に加え、さまざまな幹部協議に同席していた会計責任者の同派事務局長の証言も求めたい。

 政倫審でも明らかになったように、個々の発言の食い違いをただすためには一堂に集める形式も検討できないか。還流システムを「長年の慣行」と言うのなら、前身の森派会長を務めた森喜朗元首相からも事情を聴くことが不可欠だ。

 政倫審の焦点の一つは、還流を復活させたとされる22年8月の派閥幹部協議だ。ところが出席メンバーの塩谷立下村博文西村康稔世耕弘成各氏は意思決定へのかかわりを否定。世耕氏は「誰が決めたのか私自身知りたい」と半ば開き直ったかのように言い放った。

 下村氏は1月31日の記者会見で、還流資金を「個人パーティーに上乗せして収支報告書を合法的に出す案」がこの協議で話し合われたと明らかにしていた。「合法的」と言うならば、それまでの会計処理の「違法性」を認識していたと考えるのが自然ではないか。政倫審でそれを否定するのはにわかに信じ難い。

 自民党参院議員会長も務めた橋本聖子氏は、自身の派閥パーティー券の販売ノルマを知らないと平然と語った。ろくに調査もせずに、何のために審査を申し出たのか。西田昌司参院議員が政倫審で「派閥の幹部はそのとき知らなくても報告する義務がある」と批判したのも当然だ。

 今回おぼろげながら浮かび上がったのは、還流システムの動機だ。高木毅氏は、自前でパーティーを開けない若手議員らを支援するために始まったのだろうと述べた。派閥パーティーの名を借りてカネを集めさせる手法なら、堂々と収支報告書に記載すればいい。自民党では派閥の役割として若手議員の教育・研修機能が挙げられてきたが、これでは違法行為を指南してきたと言われても仕方あるまい。

 野党は資金還流を受けた残る70人余りの政倫審出席も求めている。本来なら一人ずつ弁明させるのが筋とはいえ、物理的に難しければ、質問書を送り、文書で回答してもらう形も検討すべきではないか。少なくとも、自民党の「聞き取り調査に関する報告書」に匿名で記された説明や意見を実名化する必要があろう。それが有権者の判断材料になるからだ。

 自民党が党大会で掲げた「解体的な出直し」の第一歩が、裏金事件の解明である。


解明進まぬ政倫審 安倍派幹部の証人喚問を(2024年3月21日『毎日新聞』-「社説」)

 「一切関与していない」と繰り返すだけでは不誠実だ。説明責任を果たすには、国会で真相を明らかにする必要がある。

 自民党の派閥が政治資金パーティー収入の一部を所属議員に還流し、政治資金収支報告書に記載しなかった裏金事件である。安倍派幹部6人が衆参の政治倫理審査会に臨んだが、いつどのように始まり、なぜやめられなかったのか、疑問は解消されなかった。

 「還流の継続でしょうがないかな」という話になったと塩谷氏が述べた一方、他の3氏は「結論は出なかった」と主張した。政治家が誰も決めていないのに、廃止方針が覆るのは不自然極まりない。

 そもそも、問題があるから安倍氏は還流廃止を決めたのではないか。だが、「違法性は議論にならなかった」と幹部は口をそろえた。下村氏は今年1月の記者会見で「合法的な形で表に出す案があった」と言及していたが、政倫審では誰が提案したか「覚えていない」と繰り返した。

 いずれも派閥や自身の報告書に不記載があったことは「昨秋の報道で初めて知った」と弁明した。派閥の内情に通じているはずなのに、責任逃れにしか聞こえない。

 幹部が「知らない」と言い張るなら、対象者を広げて証言を求めるしかない。裏金作りには衆参82人が関わり、各派の事務局長が実際に資金を管理していた。

 中でも鍵を握るのが森喜朗元首相だ。裏金作りが始まったとされる二十数年前の派閥会長で、今も安倍派に影響力があるとされる。国会に招致して話を聞くべきだ。

 野党各党は安倍派幹部らに対し、偽証罪が適用される証人喚問を求めている。本気で解明に取り組むつもりなら、自民は拒否できないはずだ。

 岸田文雄首相は先送りしていた関係議員の処分を、4月上旬にも決めるという。疑惑をうやむやにしたまま幕引きを図るようでは、国民の不信が深まる一方だ。