小林製薬の紅麹サプリで腎臓障害などが起きた可能性が報告された3月22日以降、被害を訴える人は増え続けている。
同社によると〈悪玉コレステロールを下げる〉と謳う「紅麹コレステヘルプ」など3製品を摂取した人から3600件以上の相談が寄せられ、3月30日時点で少なくとも5人の死亡が確認された。
問題の紅麹は原料として他社にも供給されており、販売先でもサプリや調味料、酒類などに使われ、各社が自主回収などの対応に追われている。
紅麹は米などの穀類に麹菌を繁殖させて作られる「麹」の一種。赤色の紅麹は古くから食品の着色料として使われてきた。
海外では10年ほど前から紅麹の健康リスクが懸念
紅麹はコレステロール低下に効果が期待され、同社のサプリを摂取した人のなかには「短期間で数値が大幅に改善した」と証言する人もいる。
医薬品などの安全性を司るPMDA(医薬品医療機器総合機構)で審査専門員を務めた経歴を持つ谷本哲也医師(ナビタスクリニック川崎)が言う。
「紅麹菌から発見したモナコリンKの成分構造は、コレステロールを下げる『スタチン系薬』の一種の有効成分と同じです。スタチン自体も菌由来で、青カビから発見されました。紅麹と青カビは別物ですが、同じ有効成分を含有することがわかり、コレステロールを下げる効果を謳う紅麹の商品が出てきた」
一般的に麹菌は有害なカビ毒である「シトリニン」を作ることがあり、今回の健康被害の原因としても疑われた。だが小林製薬の「紅麹菌」にはシトリニンを作る遺伝子はないとされ、2月の調査でも「検出されていない」と報告されている。
では、どんな可能性が考えられるのか。実は海外では10年ほど前から紅麹の健康リスクが懸念されていた。摂取による健康被害が報告されたことを受け、EUは紅麹サプリ中のシトリニンの基準値を設定しているほか、スイスでは紅麹製品の売買自体が禁止されている。
欧州食品安全機関(EFSA)は2018年、紅麹由来のモナコリンKが「横紋筋融解症」や「肝機能障害」を引き起こす可能性があると発表した。
一方、今回の健康被害として多く報告されたのは「腎臓疾患」だ。小林製薬は特定の製造ロットから「カビ類から生成される物質と似た未知の成分が発見された」としており、毒性が疑われる成分が混入した可能性が高い。谷本医師が言う。
「今回の紅麹にモナコリンKが含まれるかは発表がないためわかりません。ただコレステロールを下げる効果を謳っています。サプリは紅麹の成分を凝縮した商品のためモナコリンKに近い成分はあるはずです。その副作用も考えられる。スタチン系薬はグレープフルーツなどとの飲み合わせが原因で副作用を起こすことがある。副作用について大規模に調べる医薬品と違い、サプリの副作用をくわしく調べる仕組みはなく、安全性の検証が不十分だったかもしれない」
【*追記:3月29日に、厚生労働省は小林製薬のサプリメントに「ブベルル酸」が意図せずに含まれていたことを明らかにした。今回の健康被害の原因物質かどうか、今後、解析を進めていくという】
「未知の成分」はどこから混入したのか。 「製造過程のどこかで外部から有害物質が入った可能性はあります。また菌類は発酵の過程で様々な成分を生み出すので途中で菌の性質が変化し、有害成分が発生した可能性も考えられる」(同前)
しかし、問題の紅麹を製造していた大阪工場は昨年12月に閉鎖されており、「衛生状態の確認ができかねる状況」(大阪市)だという。同社は成分検証に少なくとも1~2か月かかるとしており、不安はしばらく続きそうだ。
国が効果を確かめ、認めているわけではない
死亡が報告された5人が摂取していた「紅麹コレステヘルプ」は国が認める「機能性表示食品」。紅麹の成分を含む商品では初めての“お墨付き”で、消費者はそれを信じて購入していた。
2015年4月に同食品制度が始まると右肩上がりで利用する企業が増え、2020年には「特定保健用食品(トクホ)」を上回った。生鮮食品を含むすべての食品が対象となることから表示品目が激増し、2023年の市場規模は6865億円に上るという。 「体に良い」といった食品表示は恰好の宣伝文句だが、消費者問題研究所代表で食品表示アドバイザーの垣田達哉氏は警鐘を鳴らす。
「トクホでは表示許可が下りるまでに国の審査があり、臨床試験を含めて効果や安全性が確かめられます。対して機能性表示食品はメーカーが“科学的根拠”を消費者庁に届け出ればほぼ認められるルールです。国が効果を確かめ、認めているわけではない。制度上、売り手は良い面ばかりを強調し、消費者側はそれに期待しすぎる側面がある」
開発費用が1億円とも言われるトクホに比べて、手を出しやすいと言えるが、機能性表示食品をめぐっては過去にもトラブルが報告されている。
2017年には都内に住む男性が「目に良い」とされるサプリを表示に従い1日2粒摂取したところ、2週間で全身にだるさやかゆみの症状が出て緊急入院。医師は「機能性表示食品による薬物性肝炎」と診断した。だが、同食品制度のガイドライン上、被害報告や注意喚起は事業者の判断となるため、商品名やメーカー名は公表されなかった。
小林製薬は今年1月以降、複数の医師や患者本人から問い合わせを受けたことで、社内調査などを実施、結果を公表した。
被害の拡大を受け、自見英子・消費者担当相は「機能性表示食品全6800品を緊急点検する」と言明したが、それで安全性は確認できるのか。
「各社が届け出た科学的根拠は世界中のデータベースで見つけた研究論文が主で、それぞれが実験データを持っているわけではない。有効性や安全性を徹底的に調べることは現実問題として難しいでしょう」(垣田氏)
一日も早い原因究明が待たれる。
※週刊ポスト2024年4月12・19日号新しい視点