参院政倫審に関する社説・コラム(2024年3月16日)

参院政倫審出席の世耕氏 責任逃れぶり目に余る(2024年3月16日『山形新聞』-「社説」)

 

 これで説明責任を果たしたと考えるなら思い違いも甚だしい。責任逃れの姿勢が目に余り、国会議員としての適格性さえ疑われよう。自民党安倍派の実力者「5人組」の一人である世耕弘成参院幹事長である。派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡り、参院衆院に続いて政治倫理審査会を開いた。参院での開催は初めてだったが、肝心なことには「分からない」を連発した。

 政治資金収支報告書に記載しなかった安倍派のパーティー券販売のノルマ超過分について、安倍晋三元首相が2022年4月、幹部との会合で議員側への現金での還流取りやめを指示した。

 「不透明で疑義を生じかねない」というのが理由だったが、安倍氏死去後の同年8月にあった幹部会合を経て還流が復活した。世耕氏は両会合に、塩谷立文部科学相西村康稔経済産業相らとともに参加していた。

 安倍氏の指示段階で違法性を認識していたと疑われるのに、還流復活を誰が、いつ決めたのか。衆院政倫審で塩谷、西村両氏の説明は曖昧だったり、齟齬(そご)があったりしたため世耕氏への質疑で焦点になったが、本人は「分からない。私自身知りたい」と述べ、当事者意識の欠如をあらわにした。幹部会でノルマ超過分を議員個人のパーティー券購入費に充てる案が出たことは認めたが、誰の提案だったかは「記憶にない」を繰り返した。

 それまでの還流方式が法に触れると考えたからこそ、代替案が示されたのではないか。提案者を特定すれば、自民党内外から批判されることを危惧したと受け止められても仕方あるまい。

 また「記憶にないことを言えと言われてもお答えできない」と主張したが、2年もたっていない少人数の会合である。国会議員としての責任の重さを自覚した誠実な態度とは到底言えない。

 安倍派は参院選の年に改選対象の議員側へパーティー券の販売ノルマ分と超過分の合計額全てを還流させていた。参院を取り仕切る世耕氏が把握していてしかるべきだ。

 参院政倫審の審査対象は世耕氏のほか西田昌司政調会長代理、橋本聖子元五輪相。派閥幹部でない西田、橋本両氏に対する質疑で実態解明は進まなかった。だが、幹部の説明責任について、西田氏は「全く果たされていない。誰一人、まともに答えている人がいない」と批判したのは国民の声を代弁したと言っていい。還流復活でも「(安倍氏が)やめるように言ったのに、それを積極的に続けていた派閥幹部は責任重大だ」と非難。世耕氏の弁明に関して「全く納得できない」と切り捨てた。身内から批判の声が公然と上がるほどの内容のなさだった。

 来週は衆院で安倍派の会長代理を務めた下村博文文科相が出席して政倫審が開かれる。真相解明のキーマンともされる下村氏に真実を証言してほしい。安倍派に影響力を持つ森喜朗元首相についても語れる立場であろう。

 下村氏もほかの幹部と大差ない発言にとどまるのであれば、真実が明らかになることはないのではないか。ならば、偽証罪に問われる証人喚問の必要性も出てくるだろう。

 

自民党裏金問題 あきれずに批判の声を(2024年3月16日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 

 自民党世耕弘成氏も逃げを打った。

 参院では初となった政治倫理審査会に、長年にわたり裏金づくりを続けてきた安倍派の3人が出席した。

 派の実権を握った「5人組」に数えられる世耕氏は、政治資金パーティー収入の不正申告を「一切知らなかった」とし、裏金工作が始まった経緯も「分からない」と話すにとどまった。

 前参院幹事長でありながら、参院選の年に改選議員にはパーティー券販売額の全額を払い戻した決定に「全く関与していない」。裏金を選挙費用に用いたかと質(ただ)されると、根拠も示さず「基本、あり得ない」と断言した。

 自身も出席した安倍派の幹部会合で、裏金の復活を誰が指示したかを問われると「私自身が知りたい」と言い放っている。

 弁明に立った元政調会長代理の西田昌司氏は、派の幹部が「責任を全く果たしていない」と批判してみせた。が、橋本聖子元五輪相とともに、自分たちも受領した裏金の仕組みは「報道で初めて知った」と口をそろえている。

 衆院政倫審でも安倍派幹部は知らぬ存ぜぬに終始した。裏金問題の解明に近づくどころか、弁明して“免罪符”を得たい保身の姿勢があらわになっている。

 総裁の岸田文雄首相からしてそうだ。「(裏金関与の議員は)検察が法と証拠に基づいて処理をした」と捜査を盾に取り、既に法的責任はないかのように語る。関係者を再聴取するとは言うものの、処分方針は明かさない。

 17日の党大会を前に取りまとめた党則などの改定案も生ぬるい。派閥の存続を禁じた一方、「政策集団」としての結集は認めた。カネの受け皿となる政治団体の設立を許せば、派閥の復活につながる疑念は消えない。

 政治とカネの疑惑が生じた議員に説明責任を課す―との規定も方式が定かでない。結局、議員の意向次第となるだろう。

 衆参政倫審の内容を受け、岸田首相は「説明責任が果たされたかどうかは国民が判断することだ」と述べている。

 党が自浄作用を働かせず、対応を小出しにするありさまでは、政治資金改革はおぼつかない。

 野党側は証人喚問で追及する構えでいる。十全な証拠がなくては仮に実現してもさして事態は変わらないのではないか。

 国民をみくびって自民がおざなりに幕引きを図るのなら、有権者はあきれず関心を保ち、厳しい視線を注ぎ続けたい。

 

悪銭身につかず(2024年3月16日『高知新聞』-「小社会」)

 悪銭身につかず、という。不正な所得は無駄に使いがちで、結局は残らないとの意味。ただ、今夏から1万円札の顔になる実業家、渋沢栄一は体験を口述した「実験論語処世談」で「悪銭も時には身につく」と語っている。

 もっとも、悪銭を肯定しているわけではない。いわく、道徳に反して悪銭をためても、途中で善心に戻り善行を積む人もいる。悪銭をためるほど優れた知恵のある人もいる。しかし、身についたとしても一代限り。〈結局永(なが)持ちせず、其(その)人の身から離れて往(い)ってしまふものである〉。

 その「悪銭―」や、「贖罪(しょくざい)寄付」「金に色はない」といった言葉がつい浮かんだ。自民党の裏金事件。党内では、裏金の相当額を能登半島地震の被災地支援に充てる案が出ているという。

 野党や世論には、「裏金を個人所得として納税しないのは脱税に当たる」という厳しい視線がある。その批判を回避する思惑もあるとか。だが、悪銭で支援される被災地には複雑な思いを抱く人もいるに違いない。

 国会の政治倫理審査会で茶番が続いている。やめたはずの裏金づくりを誰が復活させたのか。派閥幹部は皆、「知らない」「記憶にない」。テレビアニメではないが、「犯人はこの中にいる」と言いたくなるような保身と無責任のミステリーに見える。

 誰か1人ぐらい、善心に戻って正直に語る政治家はいないのか。悪銭を身から離すよりも実態解明の方が先だろう。

 

参院で政倫審 知らぬ存ぜぬは通らない(2024年3月16日『西日本新聞』-「社説」)

 

 参院で初めて開かれた政治倫理審査会でも、自民党派閥裏金事件の新たな事実は明らかにならなかった。

 弁明のために出席した安倍派の議員3人は、派閥から還流したパーティー券収入への関与をそろって否定した。

 派閥の有力幹部だった世耕弘成参院幹事長は「知っていることは全部話した」と述べたが、納得する国民はいないだろう。疑問は解消するどころか、膨らむ一方である。

 安倍派では2022年4月に安倍晋三元首相の指示で資金還流の中止を決めたが、7月に安倍氏が死去した後、8月の幹部会合を経て継続した経緯がある。幹部の違法性の認識とともに、誰が継続を決めたかが焦点だ。

 衆院政倫審では、塩谷立氏が8月の会合で還流が継続になったとの認識を示し、「結論は出なかった」と証言した西村康稔氏と食い違いが生じている。

 会合に同席していた世耕氏は「復活が決まったことは断じてない」と述べたものの、詳しい経緯は「分からない」を繰り返した。真相は依然としてうやむやなままだ。

 世耕氏は「誰がこんなことを決めたのか、私自身、はっきり言って知りたいという思いだ」と述べた。人ごとのような言い方ではないか。

 安倍派は参院選の年に、改選議員のパーティー券収入の全額を戻していた。疑われるのは選挙対策である。世耕氏はこれについても「私に何の相談もなく勝手に決まっていた」と話した。

 世耕氏は安倍派の参院議員約40人でつくるグループの会長だった。トップを差し置いてカネの扱いを決めることができるだろうか。にわかには信じ難い。

 参院で5回の当選を重ねる橋本聖子元五輪相も、この仕組みを「全く知らなかった」と語るのみだ。

 西田昌司政調会長代理は先に弁明した世耕氏に対して「説明責任は全く果たされていない」と痛烈に批判した。

 一向に実態解明が進まないことに、自民党内の不信感も増している。党総裁の岸田文雄首相が「議員個々の説明責任」を促した結果がこれである。不明な点を自ら調べもせず、無関係を強調するのは不誠実だ。

 自民党は幕引きを急ぎたいようだが、それを許してはならない。国会はあらゆる手を尽くす必要がある。

 安倍派事務総長を経験した下村博文文部科学相が、18日の衆院政倫審に出席する。他にも二階派会長の二階俊博元幹事長、安倍派に影響力を残す森喜朗元首相をはじめ、裏金の実態解明の鍵を握る人物がいる。

 実際に裏金を動かした安倍派、二階派の会計責任者にも説明を求めてはどうか。

 政倫審を何度開いても「知らぬ」「存ぜぬ」を並べるだけに終わるようなら、偽証罪に問われる証人喚問に舞台を移すべきだ。