損保不祥事防止 業界の構造的問題に切り込め(2024年4月1日『読売新聞』-「社説」)

 損害保険会社で相次いだ不祥事の背景に、業界の構造的な問題があるとみて、金融庁が規制強化に乗り出すという。

 取引先との関係や商慣習などを見直し、不祥事の根を取り除いてほしい。

 損保業界では、中古車販売大手ビッグモーターによる保険金の不正請求問題が起き、取引先である損害保険ジャパンが、不正の疑いが濃いと知りながら取引を続け、不正を助長したと批判された。

 昨年には、私鉄大手など企業向けの保険契約で、損保大手4社が保険料の額を事前調整していたことが明るみに出た。独占禁止法違反のカルテルの疑いがある。

 業界に対する視線は厳しさを増しており、再発防止策の徹底が不可欠だ。金融庁は、そのための有識者会議を設けた。保険業法や監督指針の改正などを検討し、6月にも報告書をまとめるという。

 金融庁が問題視したのは、損保会社と損保代理店の関係だ。損保代理店は、ビッグモーターのように自動車整備工場や自動車販売店が営んでいるケースが多い。

 本来は、損保会社が損保代理店を指導する立場にあるが、ビッグモーターのような大規模な代理店は、保険契約を得る有力な窓口となるため発言力が強く、力関係が逆転しているとの見方がある。

 全国に約16万店ある損保代理店の監視強化が求められる。

 ビッグモーターの例を教訓に、特に規模の大きい代理店は金融庁が重点的に監督する必要がある。民間の第三者による評価機関などが、健全な代理店に「お墨付き」を与えることも一案だ。

 ビッグモーターは顧客の車に故意に傷を付けて修理代金を水増し請求していたため、自動車の整備工場と損保代理店を兼業することを懸念する声もある。不正請求を防ぐ仕組み作りも欠かせない。

 一方、保険料の事前調整が行われた企業向けの共同保険は、インフラなど損害への補償が巨額になる場合に、1社ではなく、複数の損保が共同で契約するものだ。

 損保から企業への保険料の提示は個別に行うが、現状では参加するのが大手4社にほぼ限られ、案件ごとに幹事社を決めて事前に価格を示し合わせていた。広く海外企業や中堅企業なども参入できる枠組みを検討すべきだろう。

 損保会社による取引先の商品の購入などが契約で重視されることや、損保側が取引先の株を政策保有株として持つことも、慣行となってきた。健全な競争を妨げる悪弊を着実に改める必要がある。