1989年のきょう、新年度スタートに合わせて消費税が導入された…(2024年4月1日『毎日新聞』-「余録」)

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消費税スタートを翌日に控え、午前中から買い物客が目立った東京・上野のアメ横=1989年3月31日撮影
消費税スタートを翌日に控え、午前中から買い物客が目立った東京・上野のアメ横=1989年3月31日撮影

 1989年のきょう、新年度スタートに合わせて消費税が導入された。国民の反発は強く、事前の国会審議が難航する中、当時の竹下登首相は異例の答弁を行った

▲普通なら「高齢化社会を支える財源」と意義をアピールするだけだが、あえて問題点も認めた。低所得者ほど負担が重くなる逆進性などを挙げ、「懸念に応えることが大切」と表明した。野党にも評価され、議論が進む契機となった

▲では、岸田文雄首相が「実質的な負担は生じない」と言い続ける1兆円規模の「子ども・子育て支援金」はどうか。医療保険料への上乗せ分を歳出改革で相殺するというが、めどは立っていない。民間企業が決める賃上げまで持ち出すに至っては無理筋なのは明らかだ。深刻な少子化を食い止めるために不可欠なら、正面から負担に理解を求めるべきだろう

国内総生産GDP)で日本を抜いたドイツは財政も健全さを保つ。リーマン・ショック後に多額の赤字を抱えたが、痛みも伴う歳出削減に取り組んだ。メルケル前首相は国民向け演説で「次世代のために極めて重要」と負の遺産を背負わせない必要性を率直に訴えた

▲日本は消費税率が当初の3%から10%に上がったが、放漫財政で借金は1000兆円近くも増えた。ドイツとは対照的に将来へのつけは膨らむばかりだ

自民党派閥の裏金事件で内閣支持率は低迷が続く。国民の不信を深め、負担の議論どころではない状況を招いたとすれば、何とも無責任な政治の下で迎えた新年度である。