公益通報者保護 企業への浸透は不十分だ(2024年3月28日『熊本日日新聞』-「社説」)

 企業や団体、行政機関の不正を内部告発した人を不利益な扱いから守る公益通報者保護法が、成立から今年で20年を迎える。

 2022年6月施行の改正法で従業員300人超の企業に通報窓口設置や調査などの体制整備が義務付けられた。しかし帝国データバンクの昨年10月の調査によれば「対応している」と答えた企業は従業員千人超で7割、301人~千人で6割弱にとどまり、整備が努力義務の300人以下の企業はさらに低かった。制度の浸透が十分とは言えないのは明らかだ。

 企業の不祥事は従業員や取引先だけでなく、消費者や地域経済に多大な影響を及ぼす。組織内の不正の芽を早期に摘んで是正する「自浄作用」を発揮できるよう、企業は内部通報体制の整備を急ぐべきだ。

 公益通報者保護法は、三菱自動車リコール隠し雪印食品の牛肉偽装事件などの経験を踏まえて成立した。犯罪や法令違反などの不正を内部通報した従業員らに対する解雇や減給といった不利益な取り扱いを禁じている。改正法では、通報体制の整備義務に加えて通報者が特定されないよう社内調査の担当者らに守秘義務を課し、漏えいに罰則が設けられた。

 それでも法の存在を軽んじるような企業の振る舞いは、後を絶たない。保険金不正請求が問題化した中古車販売大手ビッグモーターは内部通報体制を整備しておらず、内部告発がありながら「もみ消した」と外部弁護士から指摘された。自動車の品質不正で揺れたダイハツ工業も、不正が疑われる関係者を社内調査に関与させないよう求めた改正法の指針を守っていなかった。

 消費者庁は両社を行政指導し、事案と社名を公表した。改正法では、より重い「勧告」に従わない場合のみが公表対象だが、同庁は「社会的関心の高さ」を理由に例外的な対応に踏み切った。政府は今後も悪質なケースに厳しい姿勢で臨みつつ、制度を広く定着させる施策に全力を挙げてほしい。

 制度に対する従業員の認知度向上も課題だ。消費者庁が今年2月に公表した就労者1万人アンケートでは、「名前は聞いたことがある」と「知らない」が全体の6割を占めた。勤め先の通報窓口の存在を知っていたのは3割止まりだった。

 アンケートからは、制度の理解度が高い人ほど勤め先で重大な法令違反を目撃したら「通報する」と答える割合が高い傾向が浮かんだ。従業員向けの社内研修で周知に努めれば、企業のガバナンス(組織統治)の強化にもつながるのではないか。

 熊本県内では昨年9月、県の旅行割引事業「くまもと再発見の旅」の不適切受給問題で県上層部が担当課に見逃しを指示したとして、関係者が熊日など報道12社に公益通報した。社内調査がたなざらしにされたり、証拠隠滅の恐れが高かったりする場合、報道機関が通報先として同法の適用対象となることも覚えておきたい。