原発が残すもの(2024年3月30日『山陰中央新報』-「明窓」)

三池炭鉱の万田坑=熊本県荒尾市
三池炭鉱の万田坑熊本県荒尾市
 
映画「かづゑ的」のパンフレット
映画「かづゑ的」のパンフレット
 

 見たい映画があり、広島県福山市の劇場に出向いた。昨夏の小欄で触れた、岡山県国立ハンセン病療養所で暮らす宮〓(崎の大が立の下の横棒なし)かづゑさん(96)を8年にわたって追った映画『かづゑ的』。10歳で入所し、多くの苦難を踏みしめながら逃げずに生きた女性だ

▼メガホンを取ったのが映像ジャーナリストの熊谷博子さん(72)。代表作は、福岡県と熊本県にまたがる三井三池炭鉱に生きた人々の実像に、7年をかけて迫った映画『三池~終わらない炭鉱(やま)の物語』だろう

▼三池争議と労組分裂、炭じん爆発事故の後遺症に苦しむ患者、朝鮮人労働者のその後など国策や企業の論理に翻弄(ほんろう)されながら、たくましく生きる人々に胸を打たれる。映画からさらに5年をかけて書き下ろしたのが『むかし原発 いま炭鉱』だ

▼綿密な取材で、事故が起きた福島第1原発がある福島県浜通りから茨城県に広がる常磐炭田跡に足を延ばす。石炭が最初に見つかった場所にある資料館は、息遣いが聞こえるような道具が所狭しと並び、常磐炭田史研究会の会員が事故の5年前に書いた文章にうなったという。「浜通りにある原発の威容を見る時、これが終焉(しゅうえん)する時にどんな文化が残るのだろうと考えてしまう」

▼関連資産が世界文化遺産に登録された三池炭鉱は1997年3月30日に閉山した。石炭、石油からバトンを受けた原発は、膨大なエネルギーと核のごみのほかに何を残すだろうか。(衣)