【震災13年 被災経験の伝承】映画の力に期待(2024年3月22日『福島民報』-「論説」)

 東日本大震災東京電力福島第1原発事故から13年が過ぎてなお、被災した県民の今を伝える新作映画の公開が続いている。発生から時を経てこそ、映画による記録と問題提起の重要性は高まると、作り手は意義を語る。さまざまな視点で撮られた作品が県内外で鑑賞され、いまだ収束していない災禍の記憶をとどめる役割を担ってほしい。

 土井敏邦監督の「津島」は帰還困難区域となった浪江町津島地区の住民18人の証言で構成され、きょう22日から28日まで福島市のフォーラム福島で上映される。下郷町在住の安孫子亘監督が手がけた「決断」は県内各地から自主避難した母子10組の記録で、29日から来月11日までフォーラム福島といわき市のまちポレいわきで公開される。他にも被災者の交流や心のケアなどを描いた作品が今春、県内で相次ぎ上映される。

 これらの記録映画に共通するのは、古里を離れざるを得なかった人々の声を丹念に集め、震災と原発事故の影響が長期に及ぶ現状を浮き彫りにした点と言える。1986年のチェルノブイリ原発事故に関する映画や書籍を振り返ると、発生から10年以上を経て世に出た作品が多い。土井監督は「われわれが作る作品は50年後、100年後に意味を持ってくる」と、後世に記録を残す重要性を説く。

 映画「ニーチェの馬」などで知られるハンガリータル・ベーラ監督は今年2月、国内外の映像作家と2週間にわたって浜通りを巡り、映画製作を指導した。特別講師として参加した山田洋次監督は、映画を通して復興に携わり続ける意向を示した。2人の巨匠が今後も本県と関わり、思いを受けた新鋭が意欲あふれる名作を紡ぎ出すよう期待したい。

 いわき市の中央台南中1年生が避難者や営農を再開した農家らを取材した動画が今月、パナソニック主催のキッド・ウィットネス・ニュース日本コンテストで最優秀作品賞などを受けた。震災の前年や直後に生まれ、記憶がなかったり、乏しかったりする中学生が惨禍を伝承するのは頼もしい。記憶の風化にあらがうには、映像の力も欠かせない。若い世代の製作意欲を高め、後押しするような地域や教育現場の取り組みも広げてもらいたい。(渡部育夫)