コロナ医療支援終了 次の感染症に備えを(2024年3月30日『山陰中央新報・』-「論説」)

クリニックで新型コロナの改良型ワクチンを接種する男性=2023年9月、東京都港区(資料)
クリニックで新型コロナの改良型ワクチンを接種する男性=2023年9月、東京都港区(資料)

 政府は新型コロナウイルスの治療や医療提供体制に関する公費支援を3月末で終了する。高額な治療薬代にも原則1~3割の自己負担を求め、入院費の補助もなくすなど、4月からは通常の医療体制に移行する。

 国内で初の感染者確認から4年余でコロナとの闘いは区切りを迎える。コロナ対応のため、財源の約4割を公費で賄う国民医療費は2023年度に約48兆円へ達する見込みだ。少子化対策の財源捻出に向け医療など社会保障の歳出改革も迫られている。平時の医療に戻すことは財政的にもやむを得まい。だが、ここで気を緩めてはいけない。

 日本は諸外国に比べ人口比で病床数の多さを誇りながら、流行のピーク時、入院を希望する患者に対応しきれなかった。感染症対策の司令塔機能が弱く、PCR検査態勢はなかなか整わず、ワクチンや治療薬の開発・生産も欧米に太刀打ちできなかった。これらは、09年の新型インフルエンザ流行後に有識者がまとめた改革案を着実に実行していれば違う結果になったとの指摘が絶えない。

 政府は「喉元過ぎれば熱さ忘れる」の愚を繰り返すことはもう許されない。4年間の「失敗の本質」を徹底的に総括し、コロナ流行の再燃、さらには、次なる未知の感染症の流行時に万全の対応ができるよう準備を整えなければならない。

 感染症法上の位置付けが5類に移行した昨年5月以前は、コロナの治療薬代や入院費は全額公費負担だった。その後は段階的に支援が縮小。治療薬代に3千~9千円の自己負担が必要になり、入院費補助も減額。この4月からは、インフルエンザと同様に平時の対応に戻る。無料のワクチン接種も終了し、65歳以上の高齢者らを対象に原則的に費用の一部負担を求める定期接種に移行する。

 ただ、ピークは過ぎたものの今冬は11週連続でコロナ感染者数が増加し「第10波」が到来した。流行は今後も繰り返す可能性がある。経済的負担を理由にワクチンや治療薬を諦めるケースが増え、高齢者や基礎疾患を抱える人々の命が危険にさらされないよう、政府は目配りを続けるべきだ。

 政府は、司令塔「内閣感染症危機管理統括庁」と厚生労働省内の「感染症対策部」を昨秋新設。25年以降に設立し、感染症の情報や治療法を巡り科学的知見を提供する「国立健康危機管理研究機構」と併せて3組織体制を整備した。コロナ対応で政府、自治体、専門家の間の足並みが乱れ、迅速対応に支障が出た反省を踏まえた措置は前向きに評価したい。だが魂を入れるのはこれからだ。

 改正感染症法は、新たな感染症拡大時に病床を確保できるよう都道府県が医療機関と協定を結ぶことを規定。9月までに全国で5万1千床確保を目指しているが、まだ到達のめどは立っていない。医療機関の逼迫(ひっぱく)回避には地域の大病院と診療所、さらには高齢者施設などとの連携も欠かせない。ワクチン、治療薬の国産体制整備も重い課題だ。いずれも平時から地道な努力継続が必要だ。

 コロナ禍の一段落で、東京一極集中の人口移動が再過熱してきたことも気がかりだ。過密化が進めば、医療や救急搬送が従来の想定を超える対応を迫られかねない。

 一極集中に歯止めをかけることは、感染症対策の観点からも重要なテーマとなろう。